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日本総研ニュースレター 2012年2月号

ビジネスモデルの確立がスマートコミュニティ実現の鍵

2012年02月01日 松井英章


震災後に注目が集まるスマートグリッドの国内展開
 2009年頃から、再生可能エネルギーの円滑導入を目的としたスマートグリッドの重要性が日本でも認識されるようになった。ただし、もともと日本の電力系統の信頼性は高かったことから、国内展開というよりは、輸出振興のための産業育成という部分に当時は重要な狙いがあった。
 しかし、東日本大震災を経て、様相は一変した。これまで国内の総電気供給力は需要を大幅に上回っていたが、今や全原発の稼動停止が目前となり、供給力に応じた需要制御の重要性が増してきた。さらに中長期的にも、リスク分散を図るために、中央集中型電力システム主体の電力システムに、再生可能エネルギーなどの分散電力システムを組み込むことが求められるようになった。そのため、スマートグリッドが備える電力制御の機能に急速に注目が集まるようになり、スマートグリッドの技術開発と国内展開を図ることが急務となったのである。

技術先行の一方で、描けないビジネスモデル
 スマートグリッドをインフラ機能として一定の地区に実装した「スマートコミュニティ」の実証実験が盛んとなってきた。ただし、電気自動車と系統の連携やスマートメーターをはじめとしたCEMSのアプリケーション開発など、個別の要素技術の実証実験が積極的に行われる一方、不動産開発が関わる実証実験はあまり進んでいない。つまり、システム開発業者よりも需要家に近い、実際に街を開発するデベロッパーに経験や知識が蓄積しないため、明確なビジネスモデルを構築できず、このままでは、せっかく確立した要素技術も実際の街づくりに生かせそうにない。

規模と機能を絞ってビジネス展開の具体化を目指す
 2011年10月、当社はスマートコミュニティのビジネスモデルを探求する組織として、SCOPE(Social Cooperation for Promoting Eco-Town)研究会を設立した。
 住宅メーカーや不動産会社、エネルギー会社などが参加する当研究会では、研究対象のスマートコミュニティの規模をスマート“シティ”という都市全体、あるいはスマート“タウン”という街全体ではなく、50~100軒の“スクエア”程度に絞っている。機能についても、必須のものは系統ダウン時に需要制御を行いつつ分散電源で最低限の電力供給を行うシステムなど、安全・安心面に関わるサービスだけに抑えることとした。規模と機能を限定したのは、「国家的プロジェクト」や特定の条件の街にしか適用できないモデルではなく、各地の新規分譲住宅街など、どこにでも適用できる汎用的なモデルを開発することが、当研究会の目的だからである。

規制緩和と総合的な街づくりでスマートコミュニティ実現へ
 スマートコミュニティにおけるエネルギーマネジメントでは、「オープンなマイクログリッド」の構築が重要と我々は考えている。オープンなマイクログリッドとは、配電制御システムを活用することで、分散電源がもたらす電力系統の電圧・周波数への悪影響を抑えながら、太陽電池や燃料電池等を積極導入し、系統ダウン時にも給電可能とするシステムである。ただし、分散電源では賄えない電力需要がある程度見込まれても、むやみに追加電源への投資は行わず、系統から柔軟に補ってもらう仕組みを想定している。
 この仕組みの実現には、系統利用に関わる電気事業法をはじめとした各種法規制の緩和が欠かせない。例えば、コミュニティとして一体性を保ちつつ系統から受電するには、マンションで採用されている、複数世帯を対象に一括で電気契約を行う高圧一括受電のような仕組みを活用できることが望ましい。これを面的に広がる戸建の住宅街に適用するには、複数の建物を一つに束ねて電気契約を行えることが求められる。しかし、複数の建物を束ねて「一需要家」と見なすためには、より柔軟な定義が必須となる。
 また、安全・安心を求める住民は、エネルギーだけに関心があるわけではない。そこで、例えば介護施設と住宅街の連携による見守りサービスなどコミュニティ向けサービスを広く提供する、安全・安心をテーマとした総合的な街づくりが、スマートコミュニティのビジネスモデルを成立させる鍵になると考えられる。
 当研究会では、スマートコミュニティの普及に寄与するため、具体的なビジネスモデルを特定する研究を進めるとともに、関連する規制緩和や優遇策のあるべき姿を今夏までに提案するべく検討を続けている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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