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日本総研ニュースレター 2011年9月号

環境都市プロジェクト/上流からのアプローチ

2011年09月01日 石田直美


新興国の環境都市プロジェクトへの参入
 「環境都市」が注目されるようになって3年目を迎えた。新興国の環境都市プロジェクトでは、上流からの参入が重要といわれており、事業の初期段階からの参画や、意志決定層へのアプローチに積極的な日本企業は数多い。
 しかし、今のところ成功事例は限られている。一方で、成果を出せなかったケースを検討してみると、共通する課題がいくつか見えてきた。

上流アプローチの課題
 第一の課題は、売り込み対象を特定しない、総花的アプローチが目立つことである。上流から関与する場合、相手のニーズが固まっていないことが多く、それが担当者の眼に、「様々なものが売れる可能性」と映るからと思われる。結局、「虻蜂取らず」に終わる例が後を絶たない。
 第二に、上流の議論と売り込み対象のレベル差である。上流で議論されるのはコンセプトや大きな方向性である一方、各社が売り込み対象としたいのは個々の技術や商品である。これでは上流の議論とかみ合わない。明確な仮説がないまま上流での技術提案を繰り返して信頼関係を構築できなかったり、逆にコンセプトの議論を繰り返すだけでビジネスへの落とし込みができなかったり、という失敗例はこの辺りが原因といえる。
 第三に、ファイナンスや運営体制等の事業視点である。新興国の都市開発では多額の資金が必要になるため、ファイナンスの提案力が製品以上に差別化要因となる場合がある。また、納めた製品やシステムのO&M(運転保守)は、本当に魅力的な都市の実現には不可欠である。しかし、それらの視点が欠けている例が存在するのが現実である。

マレーシアでのグリーンタウンシッププロジェクト
 当社は、マレーシアでナジブ首相が推進するグリーンタウンシッププロジェクトについて、東芝、NECや三井住友銀行等日本企業7社とともに、その基礎調査をNEDOから共同で受託し、検討を開始したところである。
 本調査では、マレーシア国エネルギー・環境技術・水省からNEDOが受領したレターに基づき、行政都市プトラジャヤとIT・マルチメディア都市サイバージャヤを環境配慮型都市とするためのアクションプランを日馬共同で作成する。プロジェクト形成前の上流段階で関与することによる日本企業の参画促進を意図しており、NEDO初の試みである。
 本調査では、上述した課題を踏まえ、以下の戦略の下で実施する考えである。
 第一の課題に対しては、売り込み対象を明確にしたアプローチを行う。今回、当社グループが事業提案の対象とするのは、行政都市プトラジャヤに立地する各省建物群の省エネ・エネルギーマネジメントと、EV利用のための各種インフラ整備である。その中で、例えば東芝はBEMS、清水建設は建物の診断と省エネソリューションにフォーカスする。
 そこで重要となるのが、第二の課題である、コンセプトと売り込み対象とを結び付けるシナリオやストーリーである。この部分は最も重要な点で、本調査を通じて明らかにしていくが、現段階の仮説としては、「ユーザー参加型エネルギーマネジメント」を核とした展開が有効と考えている。ここでは、エネルギーマネジメントを単に最先端技術としてではなく、住民や働く人の環境への関心を高め、環境への取り組みを持続的に発展させる基盤として位置づける。具体的には、家庭や職場におけるエネルギーの使用状況や省エネ効果等を徹底して見える化することで、マレーシア国民が省エネに自ら積極的に取り組むように促す。先進国入りを目指すマレーシアではもともと国民の関心も高く、こうして国民のレベルアップを図ることで、上流で議論する環境都市のコンセプトと、各社のビジネスを結び付けることを可能とさせるシナリオである。
 第三の課題では、バンカブルでない事業の仕立てとならないよう、三井住友銀行がファイナンスの知見を投入する。また、マレーシア国営電力会社であるTenaga National等と協働検討体制を敷いており、O&Mも含めた共同事業の立ち上げを検討することした。
 上流からのアプローチとは、単に早い段階からプロジェクトに関与することではない。本調査では、両都市のグリーンタウンシップ化を成功に導くだけでなく、上流からのアプローチモデルを明らかにし、協働で検討する事業会社がそのノウハウを獲得できるよう、進めていく考えである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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