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日本総研ニュースレター 2011年6月号

再生可能エネルギーの普及と広域送電網運用

2011年06月01日 瀧口信一郎


再生可能エネルギーの成長を阻む、地域間送電の難しさ
 東京電力福島第一原子力発電所事故を機に、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーシステムへの転換の議論が活発になってきた。現在の再生可能エネルギー供給量は伸び悩んでおり、その大きな要因の1つは、地域間の電力系統の連系が十分でないことにある。
 今回の計画停電では、東日本と西日本の電力の周波数が異なるために送電能力が限定されることが話題となったが、実際は、東日本内、西日本内でも、地域間の送電能力は限定されている。オペレーション上も、地域内の送電が前提であり、広域的な効率運用を行う発想は限定的である。
 そのため北海道、東北、四国などの大規模な風力・太陽光発電の適地から、大需要地である関東、関西、中部への送電が難しく、再生可能エネルギーの成長を阻んできた。

欧州における広域の送配電網
 欧州では、欧州全体で効率的に利用できる電力系統の形成が積極的に推進されてきた。これは、域内マーケット統合という観点、そして、原発推進政策を取らないイタリアなどの国々が、フランスの原子力、ドイツの火力、スイスの水力などからの安価で豊富な電力供給を望む事情に由来する。
 各国ごとにTSO(送電システムオペレーター)を組成させ、国際連系を図りやすくしたのもその一環である。また、欧州34カ国のTSOの協調機関であるENTSO-e(欧州電力系統運用者ネットワーク)が、約30万kmの送電線を14%増強する方針を公表したのも、需要が増加したというよりは、国際連系を高めることが目的である。
 具体的な各国間の連系も進む。英国のTSOであるナショナルグリッドは、フランスとの連系線を200万kWから増強し、さらにオランダ、ベルギー、アイルランドとの新たな連系で、2015年には従前の3倍の600万kW程度に高める計画である。北欧では、変動の激しいデンマークの風力発電量を、ノルウェーの水力発電で調整する国際連系が既に稼動する。欧州では、こうした広域電力網の整備で再生可能エネルギー受け入れ余地を広げ、発電量を拡大させている。

地域リスクに縛られない、広域送電網運用が必要
 日本でも再生可能エネルギーを最大化させる、エネルギーシステムに関する新たな制度設計が不可欠となってきた。約7,000万kWの最大需要を持つ北欧4カ国が送電網を協調運用する北欧グリッドのように、東日本・西日本の単位での一体市場の形成などが検討されるべきである。東西の周波数変換施設を含めて、地域電力会社間の連系線を強化し、各地域のTSOを介して電気を「融通」する仕組みが実現すれば、例えば北海道の風力発電等の出力の変動調整を他地域で行えるなど、需給調整が効率的になる。
 ただし、北海道から東京のように複数の地域を通過する送電には、一貫した運用体制の整備が前提となる。欧米では、電力会社が設備を所有し、運用は中立機関が担うケース、電力会社が企業内で機能分離するケース、運用と所有一体で中立機関が担うケースなどが存在する。英国では、14地域の電力会社の送電網を協調運用する形態を経て、ナショナルグリッドという1つのTSOに収斂させた。
 また、ドイツのように風力発電の出力調整に関わるペナルティー(インバランス料金)を課さないなどの系統接続要件の整備も、再生可能エネルギーの受け入れに必要である。
 最近、低コストで再生可能エネルギー導入量を最大化する方法として注目されるのが欧米で普及が進む「発送電の分離」である。送電事業者自らが発電事業を行わないため、発電事業者に公平な送電価格を提示するようになり、発電事業者は再生可能エネルギーの計画を立てやすくなる。
 なお、発送電分離の実現には、情報開示を徹底した電力取引市場や、業界支援機能と切り離した規制機関の整備が公正中立の観点から欠かせない。欧州では、政府からは独立した、英国のOfgemなどの組織が、ACER(EUエネルギー規制協力庁)と連携しながら送電網運用を監視し、中立性を担保している。
 今後、日本のエネルギー政策は、特定地域のリスクに縛られないように、エネルギー分散システムへ舵を切ることが求められる。小規模エリアでの分散化はもちろん、全国的な広域送電網運用の検討を進めることが重要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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