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日本総研ニュースレター 2011年4月号

日本独自の排出権「二国間クレジット」の動向と可能性

2011年04月01日 三木優


日本版の新しい排出権を作れ
 温室効果ガス排出削減目標を定めた京都議定書は2012年末で期限切れになるため、2013年以降も京都議定書を延長すべきかが話し合われている。京都議定書が採択された1997年と現在では先進国と途上国の温室効果ガス排出量は大きく異なっていることと、米国が入っていないことが論点となっており、日本は新しい枠組みの構築を求めている。一方、削減義務を負いたくない途上国やEU-ETSを運用する欧州は、京都議定書の延長を主張している。
 「二国間クレジット」は、日本政府が独自に制度構築を目指す新しい排出権創出の仕組みで、途上国は温室効果ガス排出削減に寄与する日本の技術・製品を導入し、日本はその削減分を排出権化した二国間クレジットを買い取るというものである。つまり、日本は自国の削減目標の一部を途上国での削減で代替でき、途上国は資金を受け取れる(図)。政府は日本の主張への賛同国を増やすために個別に交渉を進めており、二国間クレジット制度はその際に重要な交渉材料の一つとなっている。


 二国間クレジット制度には、温室効果ガス排出削減量に応じて得られる排出権を日本政府へ売却できる=「輸出補助金」という側面と、途上国政府等が独自に実施する温室効果ガス排出削減活動に日本メーカーが関与できる=途上国における販路拡大の足がかりとなり、現地消費者への浸透を図る「機会創出・拡大」という側面があり、成長著しい途上国市場への新しいアプローチ方法として期待される。
 現在、世界的に流通している排出権の多くは、国連が管理するCDM(Clean Development Mechanism)由来のものである。CDMでは、目に見えない温室効果ガスに金銭価値を持たせるために、非常に厳格な運用がなされる。一方で、蓋然性の高いことまで全て説明する必要があることや、排出削減プロジェクトとして登録されるまでに1.5年程度を要するなど、ビジネス的な観点からは「使いにくさ」が指摘されてきた。企業からは、分かりやすく、実務的な排出権創出システムが求められており、二国間クレジット制度はその一つとして2010年秋ごろから注目されるようになっている。

二国間クレジット制度の課題
 筆者は、マレーシア(ビル省エネ)とメキシコ(電球型蛍光灯・省エネ家電普及)における、二国間クレジット制度のプロジェクトを発掘するFS(事業可能性調査)に携わるなかで、二国間クレジット制度にも課題が存在することが分かってきた。例えば、日本製品が途上国市場で商業的な成功を収めるには、低い電気料金や特殊な入札条件など特有の障壁を克服する必要がある。
 また、マレーシア・メキシコ政府が共に非常に前向きな関心を示している一方、現段階では制度の中身(排出権の発行手順や排出権価格等)が固まっていないため、なかなか具体的な話に進展させられないのも現実である。

制度実現の鍵は目利き力とコーディネート力
 課題は残るものの、メリットが明確な二国間クレジット制度には、途上国の賛同が幅広く集まる可能性がある。二国間クレジット制度の構築に欠かせない、相手国政府の深い関与を引き出すには、優れた製品・技術を持ち、プロジェクトで実際に排出削減に取り組む日系メーカーの役割が大きい。その役割とは、自らの製品・技術を提供するばかりでなく、現地で具体的にどのように役立てられるかの「目利き力」と、日本政府と現地政府・現地企業の間を取り持ち双方のニーズをマッチングさせる「コーディネート力」である。
 京都議定書が終わるまでの限られた時間内に、日本の主張する新しい枠組みを実現するためにも、二国間クレジット制度の構築は急務である。「良いものは売れる」という考え方ではなく、日本製品と日本政府を現地の事情・政府・企業にマッチングさせる目利き力とコーディネート力に企業が注力することが成功の鍵になるのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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