コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2011年3月号

窒素・リン対策に注目
中国水処理ビジネスへの新しいアプローチ

2011年03月01日 石田直美


進む富栄養化と難しい排出源への対策
 中国では、1990年頃から排出規制の強化と汚水処理場の整備を進め、工場排水による水質汚染の問題に対しては一定の成果を上げてきた。しかし、中国の水質汚染問題はなお深刻である。例えば江蘇省蘇州市と無錫市に位置する太湖は、琵琶湖の3倍の面積を有し、周辺都市の水源となっているが、その3分の2は飲用には適さない水質レベルにある。汚染の深刻な無錫市側では、夏季を中心に年10回以上も取水停止になった年もある。
 問題は、特に窒素・リン濃度が高い、富栄養化が進んでいることにある。窒素・リンの排出源は工場だけでなく、生活排水や農業部門など多岐にわたるため、排出源でくまなく処理することが難しい。つまり、窒素・リンによる水質汚染への抜本的な対策は容易ではなく、閉鎖系水域といわれる湖沼や湾で厳しい規制が施行されている日本でさえ、未だ赤潮被害が年間数件発生している状況にある。
 2010年に中国政府が公表した大規模な水質汚染源調査の結果、汚染の3分の1は農業部門由来であることが判明した。農薬の使い過ぎや、畜産廃棄物の不適正な処理によるアンモニア性窒素の流出などが、地下水などに深刻な影響を与えているのである。

設備や規制を組み合わせた水質汚染対策
 こうした状況を踏まえ、今年から始まる中国の第12次5ヵ年計画では、窒素・リンを対象とした水質汚染対策が一段と強化される見通しとなっている。
 窒素やリンの対策としては、高度処理技術の導入がまず挙げられる。既に中国でも、いわゆるA/O法やA2/O法といった、日本の下水処理場でも普及している高度処理技術が数多く導入されているが、それに拍車がかかるだろう。 また、窒素・リンの除去率を高めるために、昨今日本企業が力を入れているMBR(膜分離活性汚泥法)の導入も検討されると考えられる。
 また、窒素・リンの排出源も含めた総合的な対策も重要である。前述したとおり、農業部門は窒素・リンの主要な排出源であるが、工場とは異なり、規制強化だけでは抜本的な解決を図ることができない。例えば、農業部門からの汚染物質は地下水で広がることから、地域の地下水を含めた循環を把握し、拡散リスクの高いところで重点的な対策を行ったり、農薬使用の抑制を指導したりするといった取り組みを重ねていくことが必要となるだろう。

日本企業はビジネスチャンスを手にできるか
 中国の水処理へのニーズは、そのままビジネスチャンスにもなり得るが、窒素・リンの除去技術は設備面から見るとローテクで、多くの日本企業では、それらが差別化できるものとは考えていない。しかし、設備の運転・維持管理のノウハウや、地域を面的に捉えた包括的なアプローチ等を取り込むことで、窒素・リン除去市場の可能性は広がる。
 例えば、窒素・リン対策を設備の高度化だけに頼るのは現実的でないうえ、設備導入のコスト負担も大きい。そこで、一つの設備を効率的に活用するために、設備をきめ細かく運転・維持管理することが重要となる。
 実際、処理水が設備内を循環する構造となるA/O法やA2/O法では、設備内での水の滞留時間を長くすることで除去率が向上するなど、処理設備の運転管理には“コツ”がある。また、生物膜なども、メンテナンスの巧拙が除去効率に影響を及ぼす。日本と中国の汚水処理場を比較すると、設備面が同等にもかかわらず、処理後の窒素・リンの基準値では3~5倍近く差が開く場合があるが、これは運転や維持管理の差によるところが大きいと考えられる。メンテナンス技術は、充分差別化の要因となる「高度技術」なのである。
 また、日本は水質汚染の拡散リスクをシミュレーションするツールなどを豊富に有しており、これと処理施設での経験を組み合わせれば、地域全体で窒素・リン除去の投資対効果を最大化する方策を提案することもできるはずである。
 さらに、人口増を背景に世界的にリンの需要は急増しており、リンを回収・再利用する技術もニーズは高い。こうした複数の技術やノウハウをパッケージ化して中国に売り込むことができれば、巨大市場を手にできる可能性が高まるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ