コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

日本が蓄積した政策・事業ノウハウパッケージの輸出

2015年02月10日 副島功寛


 2015年末、アセアン経済共同体(AEC)がスタートします。GDP成長率やコスト水準など経済面での格差、文化や宗教など社会制度面での違いによる多様性があり、新興国として成長性も併せ持つアセアン各国が、域内関税の撤廃等を契機に経済統合していく点がAECの特徴です。

 そのアセアンで日本企業の多くが戦略拠点を置く国がタイです。その背景には地政学的優位性と分厚い産業集積の存在があります。アセアンの中心に立地するだけでなく、アセアン1位の3.26兆円に達する日本の製造業の累積投資(2013年末時点)の存在は、近年の拠点機能の拡張、高度化を促し、その投資基調は今も健在です。
 アジア通貨危機を克服後のタイは、堅調に経済成長を続けてきました。しかし、その過程では産業セクターへの成長投資が優先され、環境対応や産業構造の転換に伴う再開発には十分な投資が行われてこなかったといえます。例えば2009年には、ラヨーン県のマプタプット工業団地内の60を超える事業会社が、環境汚染により操業停止に追い込まれました。都市機能はバンコクに集中しており、例えば、東南部シラチャ等では、日本企業の駐在員向けのサービスアパートメント等の供給が不足しています。日本企業のタイでの事業活動を持続的に発展させるには、こうした課題への対応が不可欠になります。

 1960年代以降、日本の公共・民間両セクターでは、環境対応や再開発についての政策・事業ノウハウを蓄積してきました。その政策・事業ノウハウのパッケージは今、課題を抱えるタイにおいて、インフラの整備や運営、街づくりの推進などで活用できるはずです。
 まずは1960~1980年代の環境汚染対策ノウハウです。北九州市などは、汚染を引き起こす中小工場に対し、強制執行と政策的なインセンティブを組み合わせ、移転や高度インフラ投資などの対応を促しました。
 1980~1990年代では、エコタウン開発のノウハウが築かれています。経済産業省と環境省の指導の下、リサイクル企業が集積するエコ工業団地の開発が東京都や川崎市をはじめ日本各地で進みました。
 2000年代以降は、スマートコミュニティ開発です。2008年のリーマンショック後、米国が推し進めたグリーンニューディール政策や2011年の東日本大震災の影響もあり、ITを活用したスマートグリッドや、環境負荷・災害対策に配慮した街づくりが進められています。

 日本総研は現在、タイ工業省の監督下にあるタイ工業連盟が行う、「エコインダストリアルタウン開発(EITD)」のためのマスタープラン策定を支援しています。このEITDでは、タイが抱える課題の解決に向け、こうした日本の政策・事業ノウハウを参考に、環境配慮型の産業・都市づくりを進めていく予定です。AEC時代を迎える今、日本にとって海外の主要な産業基盤といえるタイとの共同成長に向け、日本が蓄積してきた政策・事業ノウハウパッケージの輸出に取り組みたいと思います。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ