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日本総研ニュースレター 2011年12月号

ICT分野における新たな戦場
~ライフ・クラウド・プラットフォーム(LCP)~

2011年12月01日 浅川秀之


収益獲得モデルのシフト
 景気の低迷を尻目に、スマートフォン市場が活況を呈するなど、ICT関連の話題は未だ事欠かない。しかしICT関連企業の全てが潤っているわけではなく、勝ち組といえる企業は一握りに過ぎないのが実情といえる。
 特に、回線提供を担う通信事業者の収益モデルについては、その将来性を不安視する向きもある。これまで通信事業者は、回線の高速性や信頼性から相応の対価を得られたが、今のエンドユーザーは十分な対価を支払ってはくれなくなっているからである。欧米では2005年頃まで “Bit Pipe(土管)”で収益確保は可能という考えであったが、2010年頃からは、土管からの収益獲得は難しいとの考えに反転し、一部メディアでは、“Dumb(ばかげた) Pipe”と表現するようになった。
 そうした中、通信事業者の新たなビジネスモデルとして、“Smart Pipe”や“Two Sided”というキーワードが注目されている。Smart Pipeというのは、単にデータを流す土管ではない、エンドユーザーにとって価値のあるサービス提供まで含めた高付加価値の回線を意味する。また、Two Sidedとは、エンドユーザーのみに着目するのではなく、サービサー(サービス提供者)の存在も含めた「両視点」が、今後、通信事業者が収益を上げるのに欠かせないことを指す。

ライフ・クラウド・プラットフォーム(LCP)とは
 光ブロードバンドやモバイルブロードバンドの普及に伴い、インターネットに接続された機器を経由して集めたエンドユーザーの情報を、サービサーが加工して提供するサービスが、様々なシチュエーション別に開発されている。例えば、体組成計や血圧計を活用した健康管理サービスは、既に複数の企業が手掛けており、他の種類のサービスも拡大が見込まれている。
 ただし、こうした高付加価値サービスで利益を享受できるのはサービサーだけで、通信事業者は、基本料金以外の金額をエンドユーザーからは徴収しにくいのが実情である。
 対価をエンドユーザーから得られない通信事業者は、代わりにサービサーから相応の対価を得る必要がある。回線がなければサービスを提供できないという前提はもちろん、サービサーにとっていかに魅力ある回線が提供できるかが交渉面で重要となる。
 サービサーが通信回線サービスに求める価値には、安定した土管であることのほか、アプリケーションとしての機能や課金プラットフォームとしての機能が考えられる。現在、これらの分野の強化が迫られる通信事業者が、非常に注目している価値提供モデルが、「ライフ・クラウド・プラットフォーム(LCP)」である。
 LCPとは、様々な利用情報を蓄積したり、複数のサービスを一つにまとめてシームレスに利用したりすることができる機能を備え、さらに決済サービスなども提供するクラウド型のプラットフォームである。
 エンドユーザー視点からは、健康や医療、教育、省エネなどの生活関連サービスが、一元的に同じ操作体系で利用できるLCPの利便性は高い。また、例えば、高齢者見守りサービスや遠隔医療サービスなども簡単かつ便利に使えるようになるため、高齢者にも支持が広がると考えられる。
 これをサービサー視点から考えると、震災以降に関心が高まっている、健康や医療面などでの安全や安心に関するサービスを突破口として、多くのサービスを急速に普及させることが、LCPによって期待できることになる。

LCP普及には官民を挙げた戦略が不可欠
 今後、通信事業者間の主な競争は、LCPの覇権争いとなることも十分想定される。ただし、サービサーにとっては、顧客基盤の大きさが魅力の一つとなるため、ある一定の規模の通信事業者の優位性が高くなることは避けられない。
 なお、医療関連など高いセキュリティレベルが要求される情報もクラウド側に置かれるため、事業者には相応の信頼性が求められるが、現時点では、誰がどのように安全性を担保するのか、サービサーに対してどのような制限が求められるか、などは明確化されていない。当初から過度な制限を付与することは新たな市場を壊しかねないが、今後必ず表層化する問題と考えられ、各企業および総務省などの監督官庁も一体となった長期的な市場戦略構築が早急に求められる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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