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日本総研ニュースレター 2011年9月号

「スマートシティ」はビジネスになるか

2011年09月01日 小長井由隆


世界で進行するスマートシティプロジェクト
 欧米や中国など世界各国で、いわゆる「スマートシティプロジェクト」が進行している。再生可能エネルギーの大量導入やスマートグリッドなど、ITを駆使することでエネルギーの効率的利用と低環境負荷を実現するスマートシティは、都市問題解決の切り札としてばかりでなく、企業にとっては新たなビジネス市場として、IT、電子機器、重電、家電、自動車、住宅など多彩な業種からの注目を集める存在である。
 日本でも2010年から、横浜市、豊田市、けいはんな(京都府)、北九州市の4地域の実証事業がスタートしており、本年度もさらに多くのプロジェクトが計画されている。

現在はどれも実験段階
 ビジネスチャンスとしての期待が高いスマートシティプロジェクトだが、よく見ると、欧米のプロジェクトはいずれも電力利用の効率化が目的の実証実験である。中国は低炭素型の大規模都市開発を目指すが、実際に完成した都市はない。上述した国内4地域の事業も実証実験であり、国の補助金と参画企業の研究開発費が事業の原資となっている。
 つまり、スマートシティがエンドユーザーに付加価値を提供し対価を得ている事例、つまりスマートシティがビジネスとして成立する事例は、現段階では存在しないといってよい。

自治体単位の都市開発プロジェクト参画が鍵だが
 スマートシティプロジェクトで比較的ビジネス化に近いと考えられるのは、民間企業が主体で行う住宅・商業施設の開発プロジェクトである。開発した住宅や施設は企業の価格設定次第で販売可能であり、ビジネスとして成立させることができるからである。既に進行する藤沢市や青森市での計画をはじめ、今後も同様の新規案件が続くと予想される。
 ただし、企業にとって参画機会がより多いのは、自治体単位の都市開発プロジェクトである。日本で都市計画を担うのが地方自治体だからであるが、ほとんどの地方自治体が財政難に陥っており、都市整備に大規模な予算は割かれづらい。実証実験で成果を出した製品やサービスでも、高価では地方自治体が採用できないのが現実であるが、一方でスマートシティ向けの最先端の製品やサービスの低価格化は簡単ではない。つまり、現状では、企業がスマートシティを本格的なビジネスとすることは難しいと言わざるを得ない。

地方財政に負担をかけない方法で地方展開を
 日本でスマートシティをビジネスとして成立させるには、新たな財政支出を発生させずに地方自治体から委託・発注を受けるか、エンドユーザーである住民や民間企業からサービス対価を受けるかのいずれかを満たすビジネスモデルの構築が前提となる。具体的な方法を以下に挙げたい。
 ①省エネで削減した経費の一部を、フィーとして受け取る
  これはESCO(Energy Service Company)事業として既に一般的なビジネスとなっているもので、3.11以後は省エネ意識の高まりと共に一層ニーズが高まっている。今後は、施設単体だけでなく、スマートシティ全体を対象にした省エネサービスへの進化が予想され、伸長が期待できる分野である。
 ②公的サービスを、低価格かつ高サービスで提供
  公共施設の建設・管理運営の分野には、PFIの形で多くの民間企業が参入している。また、スマートシティでは、エネルギー、情報、交通などを総合的な視点で効率的に運用することが必要となるため、例えばバス、LRT、カーシェアリング、サイクルシェアリングなど複数の交通手段を組み合わせて、住民の移動を総合的にサポートするといった新たなサービスに発展させて提供することも考えられる。
 ③高付加価値の公的サービスを、住民から対価を得て提供
  震災によって、助け合う組織としての地域コミュニティの必要性が再認識されるようになり、住民主体の居住環境向上の活動である「エリアマネジメント」が発展する素地ができてきた。企業側は、再エネと組み合わせたエネルギーマネジメントや医療・健康サービスなどの高付加価値サービスの提供で支援するべきだろう。また、高齢化や近所づきあいの希薄化などから地域の防災・防犯力が低下しており、きめ細かな防災・防犯サービスにもニーズがあるはずである。

 地方自治体は財政負担に敏感である。財政規模を変えずに新たな事業を行える仕組みは、自治体、特に首長にとって魅力的である。この前提を踏まえた上で事業のメリットを彼らにアピールできれば、スマートシティビジネスの地方展開が可能になる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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