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日本総研ニュースレター 2011年4月号

大震災が不動産市況に与える影響と今後の改善に向けた提言

2011年04月01日 小松啓吾


 3月11日の東日本大震災によって、東北および北関東を中心に、市街地や集落は深刻な打撃を受けた。被害に遭われた皆様に、心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復興を願ってやまない。

不動産市場の直近の動向
 わが国の不動産市場は、日銀によるREIT(不動産投資信託)への資金供給、政府の減税政策による住宅需要の回復等の明るい兆しが見えつつあったが、リーマン・ショック以降のオフィスビルの賃料下落や空室率の上昇が長期化しており、回復は未だ遅れ気味である。国土交通省が先日公表した平成23年地価公示(1月1日現在)によれば、全国平均の平成22年対比で住宅地が2.7%、商業地が3.8%の下落と、昨年に引き続いて地価の下落傾向が見られる。
 こうした中で、大震災が発生した翌週の3月14日以降は、日経平均の下落に引きずられる形で、東証REIT指数が大幅な下落となった。その後はいったん値を戻したものの、依然として予断を許さない状況が続いている。

懸念材料は災害リスクと実需の減少
 今回の大震災が、わが国の不動産市場に対し、中長期にわたって非常に大きな影響を及ぼすことは確実だろう。
 第一に懸念されるのは、不動産の災害リスクに対する市場関係者のシビアな評価である。震災後、多くのREITでは所有物件の被害状況の調査と投資家への情報開示を行っており、現在のところ、REITの所有物件への影響は総じて軽微であるとされている。しかし今後、実需者、投資家、金融機関等の間で災害に対するリスクプレミアムが高まれば、これが市場全体の不動産価格を押し下げる要因となるだろう。また、個別の不動産においても、耐震・耐火性能への選好性から、最新の建築基準法令に適合した物件と老朽化した物件との間で、二極化が進むものと考えられる。
 第二に懸念されるのは、経済活動の停滞による実需の減少である。既に計画停電が事業所の生産活動や公共交通機関の運行に大きな支障を来しているうえ、消費行動に対する自粛ムードも根強い。これらが長期化した場合、企業の中には事務所、店舗、工場等の生産拠点を縮小する動きが強くなるであろう。そうなれば、ようやく回復の兆しが見えつつあったわが国の不動産市場が、再び足踏みを余儀なくされる恐れも否定できない。

不動産市場の底支えに向けた官民一体の取り組みを
 この先、人々がリスク回避のために過剰な「不動産売り」に転じれば、不動産価格の急速な下落を招くことになるため、不動産の担保価値の減少や金融機関の不良債権増加などは避けられない。
 これを回避するには、まず、不動産市場における投資家の不安感を取り除くことが必要である。例えば、REITにおいては、個別の銘柄を投資家が直接購入する場合は別として、複数の銘柄を組み合わせて小口化した商品の場合は、情報伝達のタイムラグや情報格差が生じやすい。投資家に疑心暗鬼を抱かせないためには、投資法人や証券会社等の市場関係者がより緊密に連携して、各REITの開示情報を一元的に集約して投資家が容易にウェブ上でアクセスできるようにするなど、正確な情報をタイムリーに開示する仕組み作りが求められる。
 国からの後押しとしては、不動産の災害リスクを軽減させる政策の強力な実行が望まれる。例えば、耐震改修促進法に基づく規制や優遇措置などの支援制度を拡充し、国内不動産全体の耐震性能向上を推し進めなければならない。加えて、耐震性能の低い建物から高い建物への買い替えに対する課税優遇等も、前述した二極化を助長するおそれはあるものの、非常に重要な検討事項といえる。
 また、不動産市場の底支えには、日銀による潤沢な資金供給が不可欠である。日銀は既に3月14日には、REITに対する500億円規模の資産買入等基金の増額を発表しているが、REIT全体の市場規模に鑑みれば少額であり、今後も継続的な資金供給の取り組みが望まれる。
 日本経済を回復させる力強い基盤として、不動産市況の安定は必須である。短期的な利害を乗り越え、官民一体となって国内不動産市場を底支えする姿勢を維持することが、復興における関係者の役割といえよう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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