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日本総研ニュースレター 2012年9月号

中小企業支援プラットフォームの再構築
~政策展開の焦点は「立案」から「実行過程」へ

2012年09月03日 柿崎平


現況認識~中小企業政策の転換期
 2009年12月の施行以来、中小企業の借金返済を猶予することで「経営再建の時間稼ぎの機会」を提供してきた中小企業金融円滑化法が、来年3月末に期限切れを迎える。未だ再建が覚束ない中小企業はいよいよ窮地に追い込まれることになりそうだ。同法期限切れへの対応策が議論されているが、過度に対症療法的な施策は産業構造の自律的変革をミスリードしてしまう恐れもある。近視眼的な議論を超えて、中長期的かつ根本的な政策論議が求められる。
 中小企業の活力を引き出すには、多数の政策を同時並行的に推進する必要がある。例えば、経済社会の新陳代謝の原動力となる起業の促進政策(とりわけリスクマネーの循環等)、中小企業のグローバル化の支援政策等である。ここでは、特定の政策ではなく、政策の立案および実行過程の観点から、現場に近い支援拠点の重要性を述べてみたい。

中小企業政策の焦点は「立案」から「実行過程」へ
 中小企業政策は、内容はもちろん、政策の実行過程が決定的な意味を持つようになってきた。中小企業の経営方針・経営戦略の多様化や状況変化の短サイクル化等が主因である。全国に均質的な被支援ニーズが存在していた高度成長期は霞ヶ関での集中的な政策立案が効率的であったが、さまざまなニーズが分散する現在では、各現場の政策実行過程での機動的な創意工夫の重要性が増してきたのである。しかも政策の「賞味期限」は短くなる傾向にある。
 ますます細分化する被支援ニーズのそれぞれに適合する政策をすべて霞ヶ関が立案することは難しく、対応の焦点は現場に近い地点での「政策のチューニング」に移ってきた。霞ヶ関が開発した政策の基本メニューを、個々の中小企業に合わせて編集加工しながらきめ細かな支援を推進するプロセスが、支援の有効性を左右するようになったのである。
 変わったのは支援プロセスだけではない。中小企業が求める支援内容もがらりと変わってきた。高度成長期は中小企業の経営方針、経営戦略は画一的であった。というよりも、極論すれば特段の経営戦略がなくても「成長」できたのが高度成長期であったと言ってもよい。次々と届く注文に社長も従業員も精一杯対応していくこと、すなわち受動的オペレーションが「経営」のすべてであった。その時代で求められた支援内容は、事業自体を創造・改善するものではなく、記帳業務や税務等の事務処理的なものが中心であった。
 一方、国内需要の縮小や取引先の海外移転等で多くの顧客を失った現在の中小企業にとって、最大かつ喫緊の被支援ニーズは「顧客創造」である。つまり、多くの中小企業が求めるのは、「正解のある課題」への指導ではなく、「正解のない課題」への支援なのである。正解のない課題に対する回答を予め霞ヶ関が作成することは不可能である。結局、現場に近い支援機関が試行錯誤的に個々の中小企業独自の「正解づくり」を支えることが不可欠となる。霞ヶ関にはその仕組みづくりが期待されることになる。

支援プラットフォームの再構築が不可欠
 問題は、現場の支援体制が中小企業側の変化に追いついておらず、旧来の被支援ニーズに適応したままとなっていることだ。被支援ニーズが転回した以上、いわゆる伝統的支援機関(商工会議所、商工会、中央会等)による旧来の支援フォーメーションは根本的に見直される必要がある。
 政府は、今年6月に中小企業経営力強化支援法を成立させ、既存の中小企業支援者、金融機関、税理士法人等が政府認定の下で組織的に地域密着のきめ細かい支援を進められる道筋をつけた。とりわけ知識と資金をセットで供給する拠点として、地域金融機関の役割への期待は高い。競争優位の源泉として、地域の顧客等と多面的かつ深い関係を築きたい地域金融機関にとっても目の前に広がるビジネスチャンスといえる。さらに、中小企業庁では、全国200箇所程度で知識サポート・経営改革プラットフォームを新たな社会インフラとして作り上げていくことを検討中である。
 「地域密着」がキーワードであるが、間違っても地域に閉じた支援機関になってはならない。中小企業の活動フィールドがグローバル化していることを踏まえ、支援機関側も海外を含めた地域外とのネットワークが必要不可欠になる。世界の動向・情報との回路を確保しつつ、地域密着のきめ細かい経営支援を提供するプラットフォームをいかに構築できるかが、中小企業政策の効果を高める基礎条件になってきているのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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