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日本総研ニュースレター 2012年7月号

スマートデバイスが顧客を「究極のタイミング」で購買へと導く
-真のプッシュ型サービスを目指して-

2012年07月02日 橋本隆信


GPS機能で成長する「その時その場」に提供するサービス
 スマートフォンやスマートタブレットといった「スマートデバイス」のGPS機能を活用したサービスが、急拡大している。
 例えば、タクシー大手の東京無線協同組合では、スマートデバイスのGPS機能を通じて顧客の現在地を把握し、顧客が場所を説明せずに配車できる仕組みを導入した。ドミノピザでも同様の仕組みを取り入れ、これまで配達が難しかった公園などへの配達を可能にしている。また、共同購入サイトのグルーポンでは、顧客がその時いる場所の近くで割引クーポンを販売している店舗をチェックできる「グルーポン・ナウ」のサービスを開始した。
 いずれも顧客が今いる場所を口伝しなくてもサービスが受けられる点で画期的といえる。これまでグーグルから地図情報の提供を受けていたアップルが、最新のiOSで独自の地図情報サービスを開始するのも、「顧客がその時その場で有用なサービス」の成長性を高く見込むからである。

嗜好に合ったサービスを「その時その場」でプッシュが可能
 ただし、一方それらは全て、顧客自らが行動を起こさないと始まらない、受身のサービスともいえる。今後は、いつでも持ち歩いて使用され、個人との接触時間が非常に長いスマートデバイスを「顧客データベース」として活用するサービスへの展開が予想される。
 顧客一人ひとりの嗜好を細かく分析し、個々のニーズにアプローチするのに、最も重要となるのは、顧客データベースの構築である。顧客の基本属性をはじめ、購買履歴、趣味、嗜好などの有用な情報をいかに収集するかが、その第一歩となる。スマートデバイスから得られる情報は、実際の様々な履歴情報であり、正確な情報の収集が可能である。
 また有用な情報を保有していても、アプローチのタイミングが悪ければ、顧客の行動にはつながらない。スマートデバイスなら、個人がTwitterなどに情報発信したタイミング、今いる場所、今購入したものなど「今」を正確に把握できる。
 つまり、スマートデバイスのネットワーク接続履歴やアプリの利用情報が、個人の行動や嗜好の多くを反映すると考えられるため、GPS機能との組み合わせにより、これまでなかなか実現できなかった、顧客にとって「その時その場で有用なサービス」を「本来の嗜好」に合わせてタイミングよく提供できるプッシュ型サービスの発展が見込まれるのだ。
 例えば、以前に検索したり、ブックマークしたりした店舗の前を通りかかると、プライベートセールの情報がスマートデバイスのアプリに入ってくる。そこには、以前購入したジャケットに合わせたパンツやシャツなどパーソナライズされた提案が掲載されている。いくつかの店舗で買い物をしていると、今度は以前から気になっていたカフェが近くにあることをアプリが教えてくれ、店への道案内までしてくれる。このようなプッシュ型のサービスも容易に可能になる。

情報収集に対価と許可は必須に
 一方で、こうした取り組みを進める上で、重要となるのが、顧客のプライバシーへの配慮である。多数の不正アプリによる個人情報の抜き取りなどが問題視されている現在、顧客のアプリに対する警戒は徐々に高まりつつある。そのため、顧客の反発を招かず、いかに有効な情報を収集するかがポイントとなる。例えば、各種クーポンを提供するアプリであれば、顧客の情報を収集することへの納得感を得やすい。クーポンという対価により、顧客は自ら情報を提供することになる。
 日頃利用されている代表的ないくつかのアプリの情報を組み合わせるだけでも、非常に有効な情報収集が可能になるが、別々の企業が提供するアプリの保有情報の連携には、顧客からの許可が必要になるだろう。そうすれば、インターネット総合ショッピングモールや電子マネーの公式アプリによる購買履歴情報、地図情報アプリによる位置検索情報などの連携による新たなサービスの開発が進むはずである。
 サービスの有効性やその対価を顧客にアピールし、より高度なサービスの提供に必要な情報を収集・連携する許可を獲得する。その許可を得た企業が、スマートデバイスの強みを活用して、顧客を購買行動に導くことができる可能性を勝ち得るのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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