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日本総研ニュースレター 2012年4月号

新興国市場攻略のための新たなプロモーションのかたち
~インド要人招聘型ソーラーミッションの事例~

2012年04月02日 時吉康範


成果を生まない視察団に現地では嫌気も
 成長する新興国のなかでも、インド市場への注目度は非常に高い。実際、日本の行政機関が音頭をとった企業のインド視察は盛んに行われている。
 しかし、成果を上げたケースは多くはないようだ。視察では、複数の企業の幹部クラスのメンバーが集まり、インドの企業や機関の見学や調査を行うのが一般的である。そこから具体的な商談を進めるには、自社を訴求できる提案をインド側に行う必要があるが、複数の企業が同席することが多い視察中は踏み込んだ話がしにくく、個別の時間を作ろうにも旅程に余裕がない。結局、視察は見学や調査で終わりがちとなり、それであれば、幹部クラスではなく、むしろ現場の技術者が往訪すべきだったということにもなる。筆者は、結果的に得るものがなかったインド側の不満もよく耳にしており、既に現地では、手間のかかる視察団の受け入れを敬遠するムードさえ漂ってきたのが実態といえる。

インド要人を招いたワークショップに大きな反響
 そうしたなか、経済産業省資源エネルギー庁では、2012年3月、技術をはじめ、各国の政策・制度を日本仕様に誘導し、日本企業がビジネス参入をしやすくする政策の一つとして、あるプロモーションを行った。それは、新・再生可能エネルギー省前次官をはじめ、タタ・グループなどの大手民間企業CEO、インド発電公社MVVN、インド工科大学、そしてインド・エネルギー資源研究所などの公的研究機関の要人約20名を日本に招き、日本企業が太陽光発電ビジネスを個別に1日ずつかけて紹介する、というものである。
 インド要人を対象として、官庁主導で行う企業のワークショップは、中国やドイツがよく開催しているが、日本はほとんど行っていない。普段はまず機会のない、要人たちの来訪とあって、日本側は各社の経営層自らが、太陽光関連製品だけでなく、それぞれの企業の総合力をPRした。
 インド要人にとっては、それまで知らなかった日本の企業・製品・技術を深く理解する絶好の機会となった。要人たちは、太陽光発電製品はもとより、関連技術や周辺の製品にも興味を示してきたのである。さらに、協業を希望する要望まで寄せられるほどの反響があった。

有力官庁だから促進できるトップレベルの交流
 今回の試みが奏功した最大の理由は、有力官庁の主催だったことにある。だからこそ、めったに単体企業に足を運ぶことがないインド要人が、遠い日本のワークショップに参加するのであり、来日するのが要人だからこそ、日本企業もトップが対応するのである。
 技術者レベルの交流は何ら否定するものではないが、製品レベル・技術レベルの対話をどれだけ続けていても、日本の製品・技術をインドに訴求するという目的には届かない。トップダウンが主流であり、かつ、トップ同士のネットワークが独自に形成されているインドでは、企業・機関の要人と事業レベルの対話をしない限り、日本企業が具体的なビジネスチャンスをつかむことは難しい。日本の有力官庁の旗振り役としての機能は、今後ますます重要となるはずである。

協働型のイノベーションがインド市場戦略の柱に
 インド要人からの質問や指摘は、率直で時に攻撃的である。しかし、一方的な物売りではなく、そうした要人の生声を正面から受け止め対応することが相互理解のために欠かせない。今回、日本側は、インド側の技術上のニーズの変化や、機器性能以上に保証内容の充実を求める傾向などを把握することができた。
 また、実はインドにおける日本企業のプレゼンスは、中国企業と比べると圧倒的に低い。信じ難いことに、欧米でも高い知名度を誇る家電メーカーでさえ、高い浸透度を誇るとはいえない状態にある。そのため、「日本ブランド」に頼った、売り込み一辺倒の従来型ビジネスは通じにくい。
 今後のインド市場戦略は、相手のニーズを反映させやすい、協働型のイノベーション推進が鍵となる。その実現には、攻め込むというより、むしろ相手を受け入れながら日本の認識を変えていく地道な作業を、官民が一致して取り組むことが不可欠である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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