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日本総研ニュースレター 2014年8月号

農協改革に伴う農業関連産業の地殻変動

2014年08月01日 山本大介


農協改革がいよいよ本格化する
 6月に閣議決定された「規制改革実施計画」に、農業分野で大胆な改革案が盛り込まれた。その一つは、種苗や資材の生産者への販売から農産物の流通・加工、小売まで農業のサプライチェーンに大きく関わる「農協」の改革だ。
 農家(生産者)の生活向上や農村地域の保全に貢献してきた農協だが、近年は生産者を支援する力が弱まったとも言われ、例えば、種苗や資材販売では「選択肢が不十分、対応が硬直的、価格が高止まり」といった生産者の不満の声が挙がる。消費者にとっても、生産者が低コストで農産物を生産できなければ安心できる国産農産物が手に入りにくいし、付加価値の高い農作物を作る意欲が沸かなければ食卓が豊かになることもない。そうした生産者、消費者視点に欠けるサービスの原因の一つとして指摘されるのは、巨大化した農協の中央集権的な構造だ。
 農協の改革を目指す規制改革実施計画では、「全農・経済連の株式会社化の検討」や「単位農協が、自立した経済主体として利益を上げる」ことなどが謳われる。
 前者は、組合員が平等に議決権を持つ協同組合から出資額に応じて議決権が配分される株式会社に移行することで経営の意思決定を迅速化させ、生産者や消費者のニーズに柔軟に応じられる経営を実現させることが目的だ。また、全農は株式会社化で資金調達が容易になる一方、独占禁止法が適用されるようになる。競争の活発化は必然だ。
 後者の狙いは、単位農協が自ら積極的に新たな事業に取り組むことの推進だ。六次産業化や農作物の農家単位でのブランド化をはじめ、生産者向けの種苗・肥料・資材をホームセンターのような店舗で販売するなど、従来と全く違う事業モデルの展開も考えられる。農産物に消費者ニーズを反映させたり、時期毎の需要量を的確に予測して品目別に生産量を管理したりすることも重要だ。政府や農水省でも、こうした試験的な取り組みへの補助などを実施し始めた。

農業サプライチェーンは5年で変わる
 全体として今回の規制改革では「単位農協中心主義」的な考え方が柱となっている。単位農協は地域事情に応じて独自の経営を行い、全国組織はそれらの単位農協を支援するというモデルへの変革が狙いだ。その過程では、農協と農協以外の組織との競争も今まで以上に促進される。
 実際、農協の力が弱まった一部地域では、農協以外の企業が生産者向けの商品販売でシェアを拡大している。農業分野の強化を掲げるホームセンターのコメリは、全国約1,000店のネットワークを活かし、種苗や資材を地域の生産者に販売する。店舗に行けばいつでも在庫があり、かつ農協よりも安価なものも多いとあって人気は上々だ。同社ではプライベートブランド商品の充実にも取り組んでおり、同社と組む資材・肥料メーカーも増えている。
 こうした強力な競合のいる地域では農協側の危機感も強く、農協自身が改革を進展させていくと見られる。規制改革実施計画で農協改革の重点期間とされる今後5年間で、農業のサプライチェーンの姿が大きく変わるはずだ。

生産者や消費者のニーズ理解がカギ
 農協自身のほか、農協を主要販路としてきた生産者向け商品の製造業、あるいは農協が主要調達ルートの流通・小売企業にとっても大きな環境変化だ。これまでは「チャネル戦略=農協との関係強化」で済んだが、今後は「新しいチャネルの開拓・強化」「自ら生産者や消費者に販売」なども含めた、複雑なチャネル戦略が必要となる。
 単位農協の改革としては、JA越前たけふの取り組みが注目を集める。単位農協が肥料を販売する場合、全農が一括調達したものを扱うのが一般的だが、JA越前たけふでは地域の風土に合う肥料をメーカーと協同開発し、上部団体を通さず2~3割安く生産者に提供する。また、自前で食味や整粒検査を行う体制によって品質を高めたコメの直接販売を始めると、「他のコメより高いがおいしく、生産者がはっきりしているので安心」と消費者から支持を集めヒット商品となった。単位農協では、種苗や資材の調達・販売、農産物の流通事業(「経済事業」と呼ばれる)は大抵赤字だが、上記などの取り組みを始めたJA越前たけふの経済事業は2013年度に黒字転換した。
 農協を取り巻くサプライチェーンは急速な変化が予想される。農協や農協に依存してきた企業は、商品やサービス、物流などの改革を進め、生産者や消費者ニーズに応える存在となることが、今後の生き残りのカギになる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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