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日本総研ニュースレター 2014年4月号

都市の「縮退」時代は、「サービス基点」で乗り切れ

2014年04月01日 亀山典子


公共施設の減少はサービスの低下にあらず
 人口減少、少子高齢化の進展に見合うよう、公共施設やインフラを集約しながら減量化させる「コンパクトシティ」は、これから「縮退」が進む都市が目指す有力な方向性の一つだ。しかし、著しいサービスの低下につながるようでは、住民の合意を得られない。
 施設=ハコの量や配置ばかりを議論していると、どうしても地域間での施設の奪い合いの状態を生み出してしまう。「公共施設を減らしてもサービスの質は維持・向上できる」ことをいかに説得できるかがコンパクトシティ推進の要諦だ。それには、「施設」からではなく、望ましい「サービス」のあり方から発想する「サービス基点」からの議論が効果的となる。サービスを工夫することで、施設統廃合のデメリットを埋め合わせられることが理解されれば、多くの場合、議論の重点は、物理的な施設整備から、よりよいサービスのための運用面での工夫に移っていく。

「サービス基点」のメリット
 複数のサービス拠点を一つの施設の中に集約し、コストの削減を目指すことは少なくない。ただし、利用者にとってのメリットを追求する「サービス基点」からの組み合わせであれば、単純なコスト削減にとどまらず、サービス向上策へと進化し得る。
 代表例の一つとして挙げられるのが、高齢者介護施設と保育所などの子育て支援施設の併設だ。高齢者にとって小さな子どもと接することは、日ごろの孤立感が癒されるだけでなく、認知症にも効果があるという。核家族化が進み祖父母世代との交流が減っている子どもの情操教育にも役立つ。
 学校とコミュニティ施設、図書館なども親和性の高い組み合わせだ。児童生徒をコミュニティで見守る環境づくりに役立つほか、放課後における自習でも活用しやすい。

廃校跡地の有効活用における複合化事例
 上記のような例は、今後、少子化で増加する廃校跡地の有効活用にもヒントになる。千葉県松戸市では、小学校跡地と中学校跡地の有効活用に際して、スポーツ施設(芝張りの「みんなの広場」、多目的屋外運動施設、屋内運動施設)に加え、多目的ホールや会議室、ギャラリー、自習室、グループ学習コーナー、屋上ガーデンなどを併設する事業に今年度着手する。屋内外の活動全般を一箇所で行えるようにしたことで、活動目的ごとに場所を探す必要がなくなり、また、他の活動にも興味が沸きやすくなることも期待できる。

官民連携……具体的なサービスは民間ノウハウを活用
 この松戸市の事業は、公共事業と民間事業とが複合化された取り組みだ。松戸市は立地周辺の特性を踏まえて必要な機能(市民活動拠点機能、誰もが憩える機能、子どもを育む機能、学ぶ機能、防災機能など)を定義し、その機能を実現するための土地利用や事業のあり方、そして具体的なサービスについて民間事業者からの提案を公募する形でこの事業を開始した。
 なお、この事業の場合は、土地面積の半分程度を民間の戸建て住宅(一部は子育て支援モデル住宅)用に売却することで、公共施設の総事業費約14億円を賄い、市の負担をゼロとしている。

人口減少に伴う都市の「縮退」がリノベーションの好機に
 施設の統廃合を機にサービス向上を図ろうとする動きは、今後当然増えていくはずだ。しかし、実際に行うには、公共としての機能のほか、自治体財政に負担をかけないための土地の利活用やサービスの事業性評価、そして実際の運営など、数多くのノウハウが必要となってくる。
 上記の松戸市の事業が官民連携で実施されたのもそのためだ。今後も同様に、官がサービスや機能の定義や事業の大枠の決定を行い、民がその機能の実現方法をはじめ、施設整備、運営手法、資金調達などの具体的な手法を提案する形での事業は、全国で広がっていくだろう。
 公共的な機能を満たしつつ、民間事業としても採算を確保できる事業を数多く生み出すことができれば、人口減少に伴う都市の「縮退」はむしろ、人口動態に合わせた公共施設の削減とサービスの向上を両立する都市のリノベーションのまたとないチャンスなのではないだろうか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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