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日本総研ニュースレター 2014年2月号

「ビットコイン」ビジネス利用の魅力と課題

2014年02月03日 宇賀村泰弘


仮想通貨「ビットコイン」の拡大
 仮想通貨「ビットコイン」に注目が集まっている。ビットコインは、金融機関を介在せずにアプリケーション一つで簡単かつ迅速にインターネット上で個対個の取引を完結させられる。また、手数料が安く、為替の影響を受けないうえ、銀行口座やクレジットカードを持たなくとも利用が可能だ。こうした利便性が評価され、決済に使える場はネット店舗だけでなくリアル店舗にも広がりつつあり、カナダや米国ではビットコイン対応のATMまで登場している。2014年2月時点の流通量は約1,200万ビットコイン(約1兆2,000億円)、利用者数は世界で数百万人に達したとも言われる状況だ。

信用構築と価格変動リスクへの対応が課題
 通貨や電子マネーと異なり、ビットコインは国や企業という発行主体による信用を持たない。そのため、今後ビットコインがビジネス上の決済手段として本格的に普及するには、「通貨としての信頼性・安定性」を確保することが最も重要だ。
 ビットコイン自体は、公開鍵暗号、電子署名、ハッシュ関数といったセキュリティ技術とコンピュータの計算処理能力を組み合わせて作成され、分散型データベースに保存された取引記録を相互に確認し合うことで、実質的に不正ができないようになっている。
 ただし、「仕組み全体に対する信用構築」には信頼ある周辺サービスの充実が欠かせない。例えば、ビットコイン自体に不正ができなくとも、電子ウォレット(財布)に侵入され、本人IDによる取引が一度成立してしまえば、元に戻すことも、高い匿名性から相手の特定もできない。円やドルなどの通貨への換金ができる取引所システムが、外部からの攻撃で実際にダウンしたこともあった。ビットコインの利用環境全体が信用を受けるためには、こうした周辺サービスにかかわる企業の努力が必要な段階にある。
 投機的な動きもビットコイン普及への壁となる。統制する主体を持たないビットコインは、本質的な価値への評価とは関係なく利用者の多数決だけで価格が変動してしまう、いわば金融商品としての顔を持つ。実際、2012年秋には1,000円程度だった1ビットコインの価格は、2013年12月に12万円に急騰した。しかし、その後取引所のシステムが外部からの攻撃でダウンしたことや一部の国で新たな規制が設けられたことなどが分かると、2014年2月13日時点で5万6,000円にまで暴落し、現在もさらに下落傾向にある。今の状況では、投機に翻弄されやすい、価格変動リスクの高い危険な通貨と認識されかねない。このままではビジネスの決済手段にはとても利用できないというのが実情だろう。

「信用ある安定した通貨」になり得るか
 各国の対応は信用や投機と関連があり、さらに注意すべき点だ。国の枠組みを超えて自由な決済を実現するビットコインに対し、自国通貨への影響とマネーロンダリング等のリスク防止の観点から、中国、ロシア、インドでは利用を禁止した。一方、ドイツやシンガポールでは、ビットコインを容認した上で課税する方針とした。今のところ、日本や米国では明確な判断を下していないが、利用者保護の観点で国が関与すれば信用向上につながる反面、規制を強めれば、ビットコインの最大の価値である利便性を損なう恐れもある。
 実務の面からは、ルール整備や周辺サービスの拡充も必要だ。例えば、売上時、支払い時や決算、税務などにおいて決済手段で使う通貨として扱うのか、売買目的の金融商品として扱うのかなど、一連の会計処理ルールはまだ存在しない。また、大企業では売上時にビットコインで受け取る時の単純な業務処理一つをとってもビットコインに対応した業務システムが必要となるが、そうした周辺サービスの整備はまだこれからの状況だ。このような実務的なルール整備や周辺サービスの拡充が進まなければ企業はビットコインを採用しにくいだろう。
 ビットコインの利便性は非常に魅力的だが、「信用ある安定した通貨」としてビジネスで使える通貨となるか否かは、現時点では判断が難しい。ビジネスでの利用を考える企業は、タイミングを逃さぬよう各国の対応や周辺サービス等の充実状況等に対して引き続き注視していく必要がある。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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