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日本総研ニュースレター 2013年12月号

2020年東京オリンピック開催を日本のICT復権を目指す契機に

2013年12月02日 浅川秀之


オリンピックを日本のICTのショーケースに
 下馬評では他都市に比べ不利とも言われていたオリンピック招致だが、無事に東京開催が決定した。
 海外から多くの選手や観光客が詰め寄せるオリンピックの開催には最高レベルのサービスが求められるため、必然的に最先端のICTのショーケースとなる。近年減速気味だった日本のICT業界は、復権をかけた絶好の機会として活用しなければならない。
 オリンピックの準備期間では、モバイル端末やネット環境の拡充をはじめ、言語の壁を取り払う自動翻訳やウェアラブル端末の高度化と普及が進むことが予想される。

「日本文化への理解獲得」のためのICT活用2つの視点
 また、もう一つ期待したいのは、「日本文化への理解獲得」というテーマを実現するためのICT活用だ。それには大きく次の2つの視点での取り組みが考えられる。
 一つは「代替技術としてのICT」だ。これは、優れた3D映像技術によるリアルな動画で、例えば神社仏閣を体験できるなど、ICTを通じてリアル(高精細、リアルタイム、実物に近いなど)に日本文化を体感してもらうものだ。
 もう一つは「サポート技術としてのICT」だ。文化の本質である人や空間そのものに直接接してもらうためのサポート技術としてICTを活用する。例えば、「おもてなし」は、実際にその場に行って人と接しなければ体感できない性質のものであり、おもてなしそのものをICTで代替することは難しい。しかし、おもてなしをする人や場に、海外からの旅行客を簡単に、うまくアクセスさせるのはICTの得意分野だ。例えば、現在地から最も近く、旅行者の言語対応が可能な「おもてなし旅館」を瞬時に探して提案する。あくまで「リアル」の部分を主役とし、ICTはそのリアルを経験するための「情報の質」を高めるために活用する。
 ICTでは前者が注目されがちだが、今後は後者も含めた両方の視点が欠かせない。というのも、特に後者のような情報の質の高さが今後のICTビジネスの成否を分けると考えられるからだ。例えば、アマゾンのユーザーによる「口コミ」は、面識の無い他人による評価に過ぎない。しかし、アマゾンでは評価者に対する信頼性を担保する仕組みを整備することで、口コミを利用者視点による価値の高い情報として認識させることに成功した。口コミは多くのヒトとつながって購買行動へと連鎖し、アマゾンに大きな恩恵を与えている。こうした情報を重視する傾向は、今後、あらゆる情報通信市場において強まるだろう。

収益を上げるポイントはバリューチェーンを俯瞰して決めよ
 ここで日本の企業として「どこで」収益を上げるかについて、事前に留意し、ビジネスモデルとして当初から作り込んでおくことが非常に重要となる。日本の文化を海外の人々に体感してもらうためにはサポート技術としてのICTは欠かせない。ただし、あくまでサポートという位置付けゆえに、そのもの自体から収益を上げることは難しい。一般ユーザーは、文化そのものを体感し、感動を得る事への対価は支払ってくれても、そのための通信手段や目に見えない仕組みなどには、なかなか対価を支払ってくれない。
 それでも実際は高度なICTの仕組みは活用せざるを得ないという、提供者視点でのジレンマがある。これを克服するためには、サービス提供の全体を構想する際から、端末を売って対価を得る、という近視眼的な視点ではなく、ビジネス全体のバリューチェーンの中で、どこで対価を得るのか、そのためにはビジネスのどこを抑えておかなければならないのか、そのためには日本企業としてどの立ち位置を得ておかないといけないのか、といったビジネス全体を広範囲に見たうえで、ビジネスを創る・コントロールする側に立つことが重要となる。この考え方は日本企業の苦手な部分であるが、2020年のオリンピックへ向けて、日本のICTを世界に普及させるためには、具備しなければならない必要要件であろう。
 2020年までは既に6年間しかないが、ICTサービスの革新サイクルとしては十分な期間だ。日本のICTが、世界中のヒトとヒト、ヒトと考え方、ヒトと文化をシームレスかつ容易につなぎ、世界との一体感を醸成できるプラットフォームを創れるかどうか。日本のICTの世界復権が試される重要な節目になるのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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