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日本総研ニュースレター 2013年9月号

TPP締結による日本企業のチャンス
~「非関税障壁」の撤廃を契機に海外展開を~

2013年09月02日 粟田輝


「関税障壁の撤廃」の影響は小さい
 年内妥結に向けて交渉中の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)だが、一般には、関税の撤廃による輸出入の活発化への期待が高い。しかし現実には、日本の主要産業である自動車産業等における関税は輸出入とも既に十分低いため、関税撤廃による影響はあまりないという見方が強い。例えば、米国が乗用車に課す関税は2.5%に過ぎず、これがすべて撤廃されたところで日本車が売れるようになるとは到底期待できない。また、日本の乗用車輸入関税は既に0%であり、日本市場への影響は皆無だ。

「非関税障壁の撤廃」はチャンス
 実はTPPのなかで特に産業への影響が大きいと考えられるのは、投資や知財保護などの「非関税障壁」分野だ。実際、日本には、交渉国にとって非関税障壁となっている法律等の撤廃・改正要求があるとされ、軽自動車に関する税制改正や保険分野の開放等が懸念される状況にある。
 一方、日本政府も他国の規制に対する撤廃要求を激しく行っているという。例えば、マレーシアの外資規制が緩和され、小売業展開などの分野に独資で参入可能となれば、経営の自由度が高まり、利幅も増える。また、ベトナムでは、外資小売業の出店(2店舗目以降)には認可が下りづらいという事実上の規制が撤廃されれば、手続きが簡略化され出店スピードを加速できる可能性がある。さらに新興国で知財保護強化が実施されれば、これまで日本企業を悩ませた模倣品・海賊版等が減少し、正規品の販売量が増加するだけではなく、模倣品使用時のトラブルも減少するだろう。
 このように、非関税障壁の撤廃、特に外資参入規制緩和は、日本企業の海外展開の幅を大きく広げるはずだ。

規制緩和と市場拡大にはタイムラグあり
 しかし、規制緩和がそのまま、その市場の順調な拡大、さらには、その市場での日本企業のシェア拡大に結び付くわけではない。実際、これまでFTA締結をしてきた国々の市場では、外資規制が緩和されてもすぐには規模が拡大せず、時間をかけて成長したケースが多い。さらに、市場拡大が緩やかであるにかかわらず、進出企業数は規制緩和によって拡大し、一時的であれ競争激化が起きる傾向さえある。
 例えば、メキシコでは、1994年NAFTA発効に伴い、規制色が強かった自動車に関する法令を変更し、輸出義務や現地調達義務を緩和した。この規制緩和によって、メキシコに多くの企業が進出し生産が拡大したが、メキシコ国内での自動車販売台数は1999年まで大きな伸びはなく、生産台数が増えた分、むしろ競争が激化した。

中長期を見据えた早期対応の必要性
 規制緩和された市場がすぐに拡大しなくても、市場拡大時の果実を得るのは、市場拡大前から進出し、積極的に販路構築やブランド構築を進めてきた企業であることが多い。
 NAFTA発効直後は横ばいだったメキシコ自動車市場も、リーマンショック等の影響を除くと、2000年以降は拡大傾向にある。ここでのシェア1位(2012年 メキシコ自動車産業協会(AMIA)調べ)は、日本企業では唯一、NAFTA発効以前から積極的にメキシコ市場で販売を行い、数度のモデルチェンジを行いながらコンパクトサイズのセダン「ツル」をメキシコ市場に浸透させた日産だ。現在では、ツルはタクシーとして多く利用されるなど、着実な支持を獲得しており、結果として日産のブランドイメージ向上に大きく寄与している。なお、2012年における日産のシェアは24.8%であり、トヨタ(5.7%)やホンダ(5.3%)などを大きく引き離す状況だ。
 TPP締結による外資規制緩和の恩恵を最大限享受するには、緩和の恩恵である新たな販路の開拓・構築に資源を集中させて取り組む必要がある。そのため、緩和直後から迅速に販路およびブランド構築を展開できるよう、緩和前も含めできるだけ早期から、市場調査や体制整備、そして進出の意思決定までを実施しておくべきだ。
 ただし、外資規制緩和直後の販路構築・ブランド構築は、市場が立ち上がっていないうえ、集まってきた企業同士の競争が厳しいことが多く、短期的には結果や収益が伴いにくい。しかし、進出を遅らせたり小規模な進出にとどめたりすると、結果として市場拡大時に遅れをとる可能性も高くなる。従って、外資規制緩和前後の資源集中の評価は短期的な収益額で行うのではなく、中長期の海外戦略に基づく収益以外の軸(例えば「販路構築・ブランド構築の達成度」)で評価し、市場拡大時の果実を狙っていくべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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