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地方創生に向けたエネルギー事業の創造 『エネルギー自由化で立ち上がる地域エネルギー市場』 シンポジウム報告

2014年12月02日 瀧口信一郎


 今後立ち上がる地域エネルギー事業とは何かを理解し、地域資源の活用や地元雇用創出による地域活性化、エネルギーの利用効率やセキュリティ向上といった意義を展望することを目的として、標記シンポジウムが11月5日、東京イイノホールで開催された。本稿では、全国から自治体やエネルギー関連企業、同市場への参入検討企業など500名近い聴衆を集めた当シンポジウムの概要を報告する。
(開催概要は http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=25153

地域エネルギー事業の狙い
 エネルギー自由化の到来で、自治体が核となり地域のエネルギー事業を創造する取り組みが全国各地で動き始めている。他方で、地域の生活や経済活動に欠かせないエネルギーを自律的に賄う事業は、地方創生の基盤となり得る。内閣も、「エネルギー」と「地域創生」を最重要施策に位置付ける。そこで大きな役割を果たし得るのが地域エネルギー事業だ。
 海外の類似した先行事例である、ドイツの「シュタットベルケ」という小規模の地域エネルギー会社(電力小売市場で約20%のシェア)は、「地域のため」という経営理念が顧客の支持獲得につながっており、電力、ガス、熱供給といったエネルギー供給だけでなく、水道、公共交通、通信など様々な生活インフラサービスまでを行うに至っている。また、ドイツの再生可能エネルギーの強みは電力と熱の2つのインフラを持つことであり、シュタットベルケも、電力と熱を供給することでエネルギー事業を成立させている。
 シュタットベルケのような「地域エネルギー事業」が日本で立ち上がったときの、20万人規模の地域全体に及ぼす効果は、15年間で429億円の総生産と2442名の雇用創出である(年間では29億円、163名の雇用)。

地域エネルギー事業の実現とイノベーション
 東京工業大学柏木孝夫特命教授より以下のようなモデルの提言が行われた。
 自治体が、災害時に最低限の業務が維持できるように、「パイプライン&ワイヤー&ファイバー」という熱、電力、情報通信の統合インフラを整備、運用し、自ら使用する3分の1の熱、電力、情報通信を賄いつつ、残りを地域の企業や住民向けに供給する。・エネルギー・インフラ投資は確実に利益を生み、学校教育、介護施設の充実につながり地域が栄える。自治体が主導し、民間の出資を仰ぎ、地域の意向を反映する評議委員会の枠組みの中で、民間が経営する事業体を組成する。
 電力と熱の供給に加え、下水道、上水道、林業、農業、ガス、バスなどに拡大した組み合わせモデル(ホールディング会社)や、ガス会社、バス会社の参加により、天然ガスやプロパンガスを買えばバスの運賃を3割割引するといったセット販売も可能となる。
 以上を踏まえ、イノベーションとは、新しい知識や技術が牽引し、社会経済システムを改革し、新たな付加価値ビジネスを呼び込むことであり、ドイツの真似でなく日本版シュタットベルケがどうあるべきかを具体化するべきであるとの主張が行われた。

地域エネルギー事業の取り組みの紹介とパネルディスカッション
 当シンポジウムでは、自治体および地域企業の役割や連携、事業基盤の整備に向けた国の支援のあり方などを検討し理解を深めるためのパネルディスカッションが東京工業大学柏木孝夫特命教授、総務省地域政策課猿渡知之課長、経済産業省資源エネルギー庁再生可能エネルギー推進室渡部伸仁室長、東京ガス救仁郷豊副社長、四条畷市土井一憲市長と共に行われた(コーディネーター:日本総合研究所創発戦略センター井熊所長)。エネルギー政策上は、再エネ特措法が「我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とし、エネルギー基本計画は、国内のエネルギー供給網の強靭化、災害リスクへの対応という観点から、需要サイド対応力を高める再生可能エネルギー、コージェネレーション、蓄電装置といった分散型のエネルギーシステムの構築を行うことを定めている。
 その適用事例として、東京都田町における土地の等価交換から官民連携が始まった事例(http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20141104-01.html)、四條畷市における公共施設が集中する市の中心部に熱導管を整備し、給食センターにガスのコジェネレーションシステムを導入し、近隣の総合体育館と中学校に電気と熱を供給して防災性を確保した事例がある。それぞれ、市民と自治体が同じ目的を共有し、実現に向けて自治体が主導し、事業者がそこに参画した好例である。
 20世紀は、集中投資をして輸出を促した工業地域がリードしたが、21世紀は、社会構造システムを改造し、地域がノウハウを蓄積して、地域が主体的に生活を守っていく。高齢化に対応するなど地域サービスの質を高めるため、専門職人材をひきつけ、活気づく仕組みを、自治体が主導する必要がある。エネルギーのシステム改革は、自治体が主導して地域活性するチャンスとなる。自治体が主導する地域事業である日本版シュタットベルケはそのモデルである。
 地域エネルギー事業の課題は、インフラ整備の資金調達が課題である。ランニングで事業収益を確保できるものの、需要が疎の地域において、地銀などからの資金調達を促すためには、呼び水となる国の支援策が必要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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