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モバイルヘルスケア産業が情報の非対称性を打ち破る

2014年10月28日 横山理佳


 モバイル機器の大幅な普及やワイヤレス技術の革新により、携帯やスマートフォン、タブレット等のモバイル機器をプラットフォームにした健康管理サービスの市場が激化している。モバイルワールドコングレスがプライスウォーターハウスクーパーズと共同で実施した調査(2012年)によると、モバイルヘルスケア関連産業の市場規模は、2017年までには世界で230億円を超えると予測されている。

 先進国では、モバイルヘルスケア産業の発展によって起こる莫大な医療費削減やその波及効果に期待している。今年8月に日本でサービスを開始した「Noom(ヌーム)」はグーグル出身者によって開発されたダイエットサービスである。iPhone、アンドロイドの複数のスマートフォンからのアクセシビリティの高さ、簡単なプロセスで記録できる食事ログ、精度の高いGPSセンシング技術を生かしたウォーキングログに加え、科学的な知見に基づいた専門家のアドバイスを有し、NIH(米国国立衛生研究所)からも高い評価を得ており、 既に全世界において1,200万人ものユーザーがダウンロードしている。また、特定保健用食品「へルシア」シリーズを展開している花王も、健康管理サービス「QUPiO(クピオ)」において、米国のII型糖尿病患者をコアターゲットとした予防プログラムをPC、モバイルの両方で展開し、栄養士の健康アドバイスサービスやレシピ提供にあわせ、健康食品(コーヒー)の購入を簡便に行えるようにしている。いずれの事例においても、研究機関や専門家の関与による普遍的な事実に基づいた情報をわかりやすく提供していることが特徴である。

 モバイルヘルスケア市場の魅力は、幅広い顧客層と、付随して起こるヘルスケア・バリュー・チェーンにある。医療従事者が携帯やスマートフォンを用いることで膨大なエビデンスデータを管理・活用するフローを簡略化できることはもとより、患者だけでなく、疾患のない健常者も含む全ての人々が、個人にまつわるデータ(検診データ、日常生活のログなど)を簡単に管理できることが大きな特徴である。 この変化により、専門家とユーザーの間にあった健康にまつわる情報のリテラシー格差を均し、生活者自身が自らの症状を把握し、理想の健康状態「なりたい自分」をイメージし、コントロールすることが可能となる。また、個人情報(遺伝子データ、資産データ、戸籍情報)への紐付けや、エビデンスに関連する商品やサービス(薬品、健康食品、リラクゼーション等)の合理的な選択を可能とし、既存のヘルスケア関連産業とは異なる領域への展開も期待できる。

 一方で、提供するコンテンツの質や情報セキュリティの問題も浮上し、FDA(米国食品医薬品局)が発表したモバイルヘルスに関するガイドラインでは、ヘルスケアアプリの開発企業の規制は行わないものの、アプリ自体については内容を精査し規制を行うと発表している。今後はますます、モバイルサービスが提供するコンテンツの確からしさに高い水準が求められる。

 現時点では、依然として、有識者とユーザーの間の隔たりは残っているものの、モバイルサービスがこれまであった健康産業の構造を穏やかに変えていることには相違ない。アメリカの経済学者であるケネス・アロー教授が情報の非対称性について言及したのが、1963年。それから50年、ユーザーに根ざしたモバイルヘルスの興隆によって転換点を迎えている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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