コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

アセアン市場拡大に伴うタイでの人材育成の方向性

2013年09月12日 梅津友朗


 近年、アセアン市場の拡大を受け、日本企業のアセアンへの投資が加速している。特にタイは今後アセアンの中核となることが期待されており、既存の製造業の基盤を軸にした拠点整備の拡張が急ピッチで進む。日本企業は、現地における開発拠点の整備により、日本で設計した製品を現地ニーズを反映して仕様変更する工程を、日本の拠点を経由せずに実施することを志向しており、現地ニーズへの対応のスピードアップを図っている。こうした状況を受けて、タイでは、単に製造業としての労働力だけではなく、上記の仕様変更を担う高度な人材が求められている。だが、多くの日本企業は、高度な人材の確保に頭を悩ませているという。

 タイで日本企業向けの教育プログラムを提供している泰日工業大学にお話を伺ったところ、タイの人材育成について2つの問題点を指摘していただいた。一つは、タイの優秀な学生は、生産現場の職に就くことを望まないということである。大学や大学院で高度な教育を受けた学生はいわゆるホワイトカラーを志向するため、郊外に立地する製造業拠点への就職よりも、バンコクの中心部で仕事のできる職種を選択する傾向が強いという。もう一つは、タイの就職事情が近年は「売り手市場」となっていることである。これにより、一部の大手企業以外は思うような人材が確保できていないと聞く。自動車業界であれば、完成車メーカーの知名度が抜群に高く就職希望者が多いのと対照的に、部品メーカーの知名度は相対的に低く、高度な人材の確保は簡単ではないようだ。

 人材は国そのものを形作る資源である。日本側の欲しい人材というシーズ起点の考え方だけで議論しても意味がない。今後の人材確保に向けて、日本はこれまで以上に現地に根付いた活動をする必要がある。まずはタイの学生が将来の職についてどのように考えているかを正確に把握し、学生の意向に添った形で、企業側が受け入れ体制を考えるべきである。そうすることで、タイ日の協力体制はより強固なものとなり、アセアン市場におけるタイの役割、ひいては日本の役割もより明確になるのではないか。


※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ