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アジア・マンスリー 2014年4月号

【トピックス】
政局不安で減速懸念が広がるタイ経済

2014年04月03日 大泉啓一郎


2013年10~12月期の実質成長率は前年同期比+0.6%と低水準にとどまった。政局不安の長期化に伴い政策実施が滞っており、2014年は2%台の成長にとどまる可能性も出てきた。

■政局不安の長期化
2013年11月にタクシン元首相らを対象とした恩赦法案が下院を通過したことを契機に、バンコクで反政府運動が大規模化した。恩赦法案は上院で否決され、インラック政権は下院解散に追い込まれたものの、反政府運動は収束しなかった。2014年に入ると、バンコクの一部道路を封鎖する抗議活動(バンコク・シャットダウン)が始まった。2月2日に実施された下院選挙は、最大野党の民主党がボイコットしたほか、1万カ所以上の投票所が閉鎖され、不完全な形で終わった。3月3日に、道路封鎖が解除され、抗議活動はルンピニー公園内に限定されたことは明るい材料ではあるが、他方、インラック首相を含めた高官は、籾米担保貸出制度をめぐる汚職問題で行政裁判所に提訴されており、有罪の判決が下れば、内閣は総辞職となる。政局不安はまだ出口を見出していない。

■2014年の成長率は大幅下方修正の可能性
経済に目を転じると、2013年10~12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+0.6%と7~9月期の同+2.7%から低下した。季節調整済前期比も同+0.6%と勢いは弱い(右上図)。2012年に実施された景気刺激策の効果がはく落し、2013年半ばから失速傾向にあった景気に政局不安が重なる形となった。これに伴い2013年通年の実質成長率は前年比+2.9%と前年の同+6.5%から大幅な低下となった。

これまで景気を下支えしてきた民間消費は、前年同期比▲4.5%と、7~9月期の同▲1.2%から一段と落ち込んだ。とくに乗用車の販売台数は、新車購入奨励策が終了した影響もあって、同▲42.0%となった。また、公共投資は政局不安のなかで多くの案件が実施されなかったため同▲4.7%、民間部門も企業が投資を見合わせたため同▲13.1%となった。景気減速のなかで輸入が縮小したため、経常収支が黒字となり、かろうじてプラス成長を維持した。

2014年1月の民間消費指数と民間投資指数は、それぞれ前年同月比▲1.5%、同▲8.6%であり、製造業生産指数も同▲7.4%である(右下図)。また、消費者信頼度指数は低下傾向を強めており、2月の先行きは、過去12年間で最低水準を記録した。

2月17日に、NESDB(国家経済社会開発庁)は、2014年の実質成長率見込みを3.0~4.0%と発表したが、これは政局安定化により年後半に景気が大きく上向くことを前提としたものであり、楽観的すぎるとの見方もある。

このようななか、景気下支えの観点から、タイ中央銀行は、3月12日に政策金利(翌日レポ金利)を年2.25%から2.0%へ0.25%ポイント引き下げた。2013年11月に続く利下げで、3年3カ月ぶりの低い水準となった。

■政策の停止・遅延が景気に痛手
景気動向については反政府運動の直接的影響よりも、政府不在による政策の停止・遅延の影響が懸念されている。

実際に籾米担保貸出制度の支払いが滞り、地方・農村の消費が落ち込んでいる。この制度は、政府が農家から籾を担保とする貸出を通じて実質的に高価で買取る制度であり、農家の収入基盤を支えるものであるが、政局不安が深刻化した昨年11月から支払が停止した。3月上旬に、タイ農業組合銀行(BAAC)が200億バーツを肩代わりすることが決まったが、残りの1,000億バーツを超える支払いへの対処(時期や資金源)は不透明である。一部の農村・地方では、抗議デモも広がっており、景気減速だけでなく、新しい政局不安の火種となる可能性さえある。

また、2013年に着工予定であった治水プロジェクト(総額3,400億バーツ)と輸送インフラ整備(総額4兆2,500億バーツ:下表)が先送りになった影響は大きい。3月12日には、憲法裁判所により、輸送インフラ整備に関する2兆バーツ借入特例借入法が違憲とされた。憲法裁判所は、緊急を要さないインフラ整備は通常予算で対処することを要請したが、現行の予算に同インフラ整備を含める余地はなく、実質的には停止となる。これらインフラ整備の遅れは、短期的に景気を抑制するだけでなく、中長期的にタイの競争力の低下の原因になる。

さらに、政局不安の長期化が、外国投資に影響を与える可能性もある。BOI(投資委員会)の新委員の任命が遅れており、新委員による審議を必要とする大型案件投資の認可は進まない。また、2015年のASEAN共同体発足を見据えたタイの産業構造の転換を図るために準備されてきた新投資法の制定と実施も遅れることになる。

政治安定化には、3月30日の上院選挙が計画通り実施されることが第1歩となる。そして、4月下旬の下院再選挙が滞りなく実施されれば、政局不安は大きく緩和されよう。他方、政局不安が続き、新政権の発足が年半ば以降にずれ込めば、成長率が2%台にとどまる可能性がある。
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