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CSRを巡る動き:中国民営企業の慈善事業の進展

2014年04月01日 ESGリサーチセンター


 昨今、企業の社会に対する責任のあり方として、経済価値と社会価値はトレードオフではなく、むしろシナジー効果のあるものとしてとらえ、共通価値の創造(=CSV:Creating Shared Value)を追求していくことが高く評価されるようになりました。他方で、「フィランソロピーは社会貢献できる非常に良い行いではあるものの、直接的な問題の解決にはつながらず、その効果は低い。社会に大きなインパクトをもたらすまでには至らない」との指摘も行われるようになっています。

 しかし、企業のどのような取り組みが評価されるかは、活動する地域の歴史や価値観によって大きく異なるのも事実です。その典型例として、中国における企業の行う慈善事業をあげることができるでしょう。

 中国社会の特徴として功利的な傾向が指摘されることもありますが、一方で慈善事業が広く普及し、人々に受け入れられていることはあまり知られていません。2014年1月に北京市で開催された「第4回中国慈善年次総会」で、中国民政部(日本の旧厚生省に相当)の李立国部長は「2013年、中国の慈善事業は新たな発展が得られた。全国からの寄付金総額は前年に比べ大幅に増加、1000億元(約1兆7000億円)に迫ると予想される」と表明しました。2013年、中国の慈善団体は数量・規模ともに増加を続け、基金会の数は3500を上回るといいます。

 現在、中国では、赤十字社法、公益事業寄贈法、基金会管理条例、基金会情報公開法、救済寄贈管理法、民間非企業事業所登記管理暫定条例、個人所得税法実施条例などにある慈善事業に関連した規定を統合して、「慈善事業促進法」を制定しようという動きも出ています。

 そして、こうした活発な慈善事業の担い手が企業、とりわけ民営企業なのです。民営企業が2012年に募金・寄付した総額は275億600万元(約4,757億8,000万円)と、募金・寄付した企業全体の約58%を占めたといわれています。

 1月20日、民政部と全国工商業連合会は、連名で「民営企業の積極的な公益慈善事業推進を支援することに関する意見」を公表し、民営企業が手掛ける慈善事業に土地供給など様々な優遇措置を取ることを明らかにしました。中国政府は、国内の社会的課題の緩和に向けて、政策で民営企業の慈善事業を奨励する方針を明確にし、慈善事業を企業が社会的責任を果す効果的な方法であると位置づけています。

 具体的には、民営企業による慈善事業団体の設立を支援して、著しい貢献を果した民営企業には土地供給や施設設備などの側面で優遇策を講じるほか、政府による製品・サービスの優先的調達を行うとしています。また、税制優遇や政府がメディアに働きかけて、その取り組みを積極的に情報発信をしていくことにも言及しています。

 興味深いのは、市民の側も、こうした企業の慈善活動に大きな関心を持っている点でしょう。2008年の四川省大地震の折には、企業がこぞって義援金の拠出を表明しましたが、拠出に熱心でない企業は「鉄公鶏」(ケチ)と形容され、不買運動やデモの対象となったということです。平時でも、毎年、政府系機関が企業ならびに個人の寄付額のランキングを公表しています。

 このようにしてみると、中国では慈善事業への取組姿勢も、企業価値を左右する一要素となっているといえるでしょう。経済のグローバル化は、企業の社会的責任の概念をも一見、画一化していくように思えますが、ローカルな価値観を無視することはできません。日本企業の海外展開には、こうしたきめ細かい市場の理解が求められているといえるでしょう。
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