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アジア・マンスリー 2013年11月号

【トピックス】
拡大する中国の消費市場

2013年11月06日 関辰一


2012年の中国の家計消費支出は2.5兆ドルと日本の1.3倍に拡大した。2015年の支出規模は8兆ドルに達する可能性もある。消費構造の変化も見込まれるなか、サービス消費が特に拡大する見通しである。

■拡大する消費市場
近年、中国では人件費が急ピッチで上昇している。これにより、中国の生産拠点としての魅力は低下しつつある(詳しくは、アジア・マンスリー2012年3月号「厳しさを増す中国の加工貿易」を参照)。
もっとも、視点を変えてみると、所得水準の上昇により、消費者の購買力が向上し、消費市場としての魅力が高まる結果ともなっている。まず、現在の市場の大きさに注目したい。中国国家統計局によると、2012年の1人あたり消費支出は都市部では1万6,674元、農村部では5,908元であった。同年の都市部人口は7.1億人、農村部は6.4億人であった点を踏まえると、全国の家計消費支出は15.7兆元(2.5兆ドル)にのぼる。
次に、2000年から2012年までの市場の変化をみると、家計調査ベースのわが国の消費支出総額は160兆円(1.9兆ドル)程度で伸び悩むなか、中国の消費支出は年平均15.5%のペースで拡大した。
とりわけ、都市部における自動車関連支出の拡大が顕著である。国家統計局によると、都市部1人あたりの消費支出総額に占める交通支出の割合は2000年の3.2%から2012年に9.8%へ上昇した。具体的には、自動車の購入や維持に対する支出が大きく増加した。他方、食料支出の家計消費支出に占める割合は2000年の39.4%から2012年に36.2%へ低下した。このように、エンゲルの法則が中国においても観察される。

■一段と拡大する見込み
今後を展望すると、中国の消費市場は所得水準の上昇に伴い、持続的に拡大する見込みである。
実際、所得と消費支出には比例関係が存在する。消費財業界およびサービス業界に特化した英国の市場調査会社ユーロモニターが集計した71か国の1人あたり消費支出と1人あたりGDPのデータを基に散布図を作成すると、クロスカントリーでこの点を確認できる。このデータに基づけば、2015年の1人あたりGDPが1万ドルまで増加すれば、中国の消費市場は8兆ドルに達する可能性がある。

■潜在的な市場規模が大きいサービス消費
これまで所得の増加に伴い、消費支出も増加したが、自動車に対する支出は大きく増加した一方、食料品に対する支出の増加ペースは緩慢にとどまるなど、すべての分野で一律的に拡大するわけではない。
例えば、洗濯機や冷蔵庫の普及は日本の高度成長のけん引役となったものの、これらはもはや中国経済の今後の成長ドライバーにはならないであろう。2000年から2012年にかけて、家電を含む家具・家事用品の支出は拡大したものの、拡大ペースは相対的に緩やかであり、全体シェアは7.5%から6.7%へ低下した。中国の都市部では、洗濯機や冷蔵庫など主要な家庭用耐久財の普及は一巡した。実際、2012年の都市部における100世帯あたりの保有台数は洗濯機98台と日本と比べても遜色のない水準である。農村部でも100世帯あたり67台と普及後期にあるといえよう。冷蔵庫についてもそれぞれ100世帯あたり99台、67台である。
今後、中国で大きく拡大すると見込まれる分野は、サービスである。中国の消費者ニーズは所得水準の上昇に伴い、多様化・高度化すると見込まれる。モノに対する質的な要求が強まると同時に、レジャーや宿泊、通信などのサービスに対する需要が特に大きく拡大する見通しである。
実際、ユーロモニターが集計した各国の1人あたりのサービスに対する支出と1人あたりGDP を整理すると、両者には強い相関関係がみられるばかりでなく、所得が高まると消費支出総額に占めるサービスのシェアが上昇するという明確な相関関係も観察される。このような現象は、所得が増加するとシェアが低下する食品・ノンアルコール飲料に対する支出とは対照的である。
中国消費者のサービス支出の拡大は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスとなる。例えば、より多くの中国消費者が海外旅行をするようになることは、観光業にとって収益拡大の機会となる。世界観光機関によると、2012年の中国の海外観光客の総支出額は1,020億ドルとドイツと米国を上回り、初めて世界一となった。年間の海外旅行客数は8,318万人にのぼる。渡航先は、香港とマカオが大半を占めるものの、近年では他のアジアが徐々にシェアを高めている。日本が受け入れた中国観光客数は143万人と2005年の65万人の2倍以上となり、今後さらなる増加が見込まれる。好影響は観光だけにとどまらない。中国の消費者ニーズの多様化・高度化は、質の高い商品・サービスの提供により国内での厳しい競争に勝ち残ってきたわが国非製造業が海外収益を伸ばすチャンスとなる。レジャー施設やホテル、運輸など多くの業界において、中国事業の拡大は大きなチャレンジとなろう。
このように、中国の消費市場は所得水準の上昇に伴い、大きく拡大した。今後、中国の家計消費支出は一段と拡大する見込みである。とりわけ、急ピッチで拡大すると見込まれる分野はサービスであり、これは日本企業にとってもビジネスチャンスである。
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