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地域社会資産としてのEV(電気自動車)

2012年11月20日 武藤一浩


日産リーフ、三菱i-MiEVの販売計画未達の可能性。トヨタがEV市場普及予測を下方修正。わが国が進める急速充電器規格「チャデモ」が欧州規格の「コンボ」より劣勢。など、わが国のEV(電気自動車)に関するネガティブな報道が続く。しかし、これは当然の結果であるとも思う。

そもそも、EVに期待されたのは、一家に一台という既存ガソリン車の代替の世界ではなく、スマートグリッド・スマートシティ・スマートコミュニティといったネットワークにおけるモビリティとしての位置づけだ。EVの真の価値は「電化」により情報や電力のネットワークに接続されるモビリティになることである。ハード単体がネットワーク化されることによって新たな世界が生み出されていく姿は、先行するITの世界から想像ができよう。EVメーカーは、「スマートハウス」という個を相手にするこれまでの従来のビジネスモデルとなんら変わらない意識が根付いていると思う。今こそ「EVの真の価値」を再認識し「スマートコミュニティ」という「団体」「エリア」「コミュニティ」向けのビジネスモデルに転機する時である。

モビリティの個と個をつなぐ、それは公共交通指向型(都市)開発(TOD: Transit Oriented Development)としてスマートシティの交通分野で位置づけられており、フランスのパリで展開するオートリブというEVカーシェアリングが先行し成功しつつある。その中注目すべき特徴は、わが国のカーシェアリング(数日前から予約でき、原則同じ場所に返却する無人レンタカー)とは違い「原則ワンウエイ(元の場所に戻さない)」「45分前から行き先ステーションを予約できるようになり、30分前から周辺にあるEVで行き先に向かうために予約できるようになる」という点にある。この背景には、一事業者が展開するビジネスではなく、公共交通的な意識付けの徹底がうかがえる。オートリブは、パリだけでなく周辺の自治体も巻き込みながら、EVを住民に「地域の社会資産」として歓迎される形とし、その配備が3,000台に届く勢いだ。

一方、わが国でオートリブのような展開は法的な課題も含めて難しいし時間もかかる。そこで、我々はまずEVを地域の社会資産と位置付けられる土壌作りを進めている。具体的には、昨年度品川区大崎駅の周辺企業が参加するコミュニティ(スマートシェア倶楽部・大崎)を設立し、その企業が保有するEVを地域住民も利用できるようカーシェアリングしている。排ガスを出さないクリーンな移動体というだけでなく、蓄電池として非常用電源や再生可能エネルギーの安定供給につながる地域の社会資産と位置付けられるEVを目指している。具体的に、災害時には非常用電源として地域の小学校などの避難所に提供する予定だ。
設立以来、地域の祭りなどのイベントで、活動の主旨を地域住民に地道にPRし続けた結果、最近になってようやく地域に認知され歓迎を受け始めるようになった。現に、稼働は他のEVやカーシェアリングステーション車両の中でも高い。

今後のわが国のEVの普及は、「地域の社会資産」となり得るかにかかっていると思う。我々はスマートシェア倶楽部の活動を通じ、引き続き地域社会資産となるEVのあり方を実践していく考えだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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