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東南アジア諸国間の「違い」を考える (第1回):合計特殊出生率

2012年10月31日 田中靖記


タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・ミャンマー……、これらの国々は「東南アジア諸国(もしくはASEAN諸国)」とひとくくりに扱われることが多いが、実際には経済発展の裏側に抱える課題は多種多様であり、人々の生活行動・様式も当然のことながらそれぞれ異なっている。本シリーズでは、それらの国々の実態を統計情報や政策、現地の声などから明らかにし、東南アジア諸国間の「違い」を浮き彫りにしたい。第1回は社会・経済構造へ大きな影響を及ぼす合計特殊出生率※1を取り上げる。

厚生労働省が2012年9月6日に発表したところによると、日本における2011年の出生と死亡の差である人口自然増減数はマイナス20万2260人となり、5年連続でマイナスとなった※2。合計特殊出生率は2005年に過去最低の1.26を記録して以降、若干の回復傾向にあるが、人口減少、特に若年層の減少は、歯止めが利かない状態にある。
今や日本をはじめ世界中の国家が頭を悩ます人口減少問題であるが、アジア諸国もその例外ではない。図表1は、1980年以降のアジア主要国における合計特殊出生率を示したものである。図中の赤帯は、長期的に人口が維持される水準である人口置換水準※3を示したものである。



一人っ子政策等の影響により中国の合計特殊出生率が低下していることはよく知られているが、実はタイも中国と同程度の水準にある。タイ政府は年金・保険制度の充実等高齢者対策には力を入れているが、少子化対策に有効な打ち手を提示していない。また、現地メディア等の報道でも、少子化に関するものは少ないように見受けられる。しかし、2005年にタイ政府が実施したサンプル調査によると、首都バンコクにおける合計特殊出生率は1を下回っており、少子化の問題は一層深刻化すると思われる。さらに、ベトナムでも2000年以降の合計特殊出生率は2を下回ったまま停滞しているし、ミャンマーも2010年には2まで低下した。それにより労働力の供給が先細りになり、労働者賃金の増加率も上昇する可能性が高い。
一方で、東南アジア諸国の中で高い合計特殊出生率を記録しているのがマレーシアである。マレーシアの合計特殊出生率は2.6と、インドとほぼ同水準である。今後も人口構成が維持され、経済発展にプラスの効果をもたらす可能性が高い。合計特殊出生率の低下に悩む他の東南アジア諸国からも、労働力を安定して供給できる国として期待されよう。

今後、タイ、ベトナムなど合計特殊出生率が低下している国々では、子ども1人あたりにかける投資額が増加してくるだろう。これは、より高品質なサービスが求められるようになることを意味している。実際、日本総研が2011年12月に行った「アジアコンシューマインサイト比較調査」では、バンコク市民の子どもへの投資額は他の調査対象都市※4よりも高かった。
また、高い合計特殊出生率を維持するマレーシアでは、相対的に「大家族」が維持される可能性があるため、住居や家庭向けの各種サービスにも、単身から大家族それぞれに向けた幅広いラインナップの商品設計が求められる。
若年人口は将来的な経済成長を規定する大きな要因の1つとなるため、各国において多様な政策が打ち出される可能性が高い。政策の動向を見極め、ビジネスチャンスを逃さないようにする準備が求められる。

※1:1人の女性が生涯に生む子どもの数を推定した指標
※2:2011年人口動態統計(確定数)による
※3:人口置換水準とは、長期的に人口が維持される水準の合計特殊出生率のことをいう。先進国ではおおむね2.1程度とされる。死亡率の高い発展途上国ではそれよりも若干高くなるとされる。ここではおおむね2.1~2.5の水準とした。
※4:調査対象都市は東京、上海、ムンバイ、シンガポール、クアラルンプール(スランゴール州含む)、バンコク、ジャカルタ、ホーチミンの8都市。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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