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インド電力インフラの本当の問題点

2012年10月04日 三木優


7月30・31日の2日間、首都デリーを含むインド北部・東部・北東部で大規模な停電が発生した。日本でもこのニュースは大きく報道され、「6億人に影響」、「過去最悪」などの見出しが並び、インドの電力インフラの脆弱性に注目が集まった。

大停電を引き起こした理由は、一部の州で制限以上に電気を使ったためとされている。電力使用量に制限がある背景には、インドの電力インフラが抱えるさまざまな課題がある。その主な課題は以下の通り。
・ピークの電力需要に対して、発電能力が10%以上不足していること
・送電ロスが25%程度であり、その大半は盗電や料金回収システムの不備であること
・政策的に家庭向け・農業向けなどの電力価格が低く抑えられたために配電会社が巨大な赤字に陥り、コスト回収に不安を持つ発電会社が新規の電源開発を抑制していること
・石炭・天然ガスの不足から既設発電所では稼働時間の制約、新規発電所では立地の遅延が生じていること

このような課題が解消されない中、経済成長に伴って電力需要は旺盛な伸びを示しており(政府通しでは年率8.1%の増加)、需給状況だけで考えるとインドの電力インフラは危機的な状況にあり、今後も大停電が頻発して、社会・経済が大混乱に陥ると考えるのが一般的である。

しかし、現地にて今回の大停電について、インドに進出している日系企業のお話を聞いていくと、上記のような机上の需給バランスは問題視されていない方が大半であった。理由は、普段から電力品質が低いため、工場には必要な電力を100%供給できる自家発電が設置されており、しかも常に自家発電の電気を使っている工場が多かったためである。つまり、生産の観点では影響が無く、物流が長期間にわたって滞るような致命的な事態が生じない限り、影響が及ばないと言うことであった。これは日系企業だけでなく、多くの工場・病院・ホテル・ビルなどでも同じであり、自助努力で「困ってはいない」という状況がインドの現実である。

この自助努力により「困ってはいない」状態が前提条件となり、上で挙げた問題が放置されても社会・経済がある程度は回ってしまうことが、インド電力インフラの本当の問題点である。本来であれば公的整備すべき電力インフラを民間側が自家発電でカバーする場合、電力コストは2倍となり、生産コストを増大させる要因となっている。インドのビジネスでは電力に限らず、自助努力を求められるケースが多く、進出前の検討で計算した生産コストと実際の生産コストの乖離が大きくなり、結果として事業の黒字化に時間を要している企業もある。自助努力が求められる状況を改善するのは容易ではないが、例えばグジャラート州は各種インフラ整備に力を入れ、州単位ではあるが問題の解決に向かい始めている。グジャラート州に産業が集積し、成功を収めれば追随する州も増加し、電力インフラが整備された地域が増加すると期待できる。系統電力で生産できることは生産コストの低減につながることから、グジャラート州および立地企業の動向は要注目である。

※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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