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CSRを巡る動き:オーナー企業とCSR

2012年01月01日 ESGリサーチセンター


11月21日、総合製紙業大手の大王製紙は、私的な借り入れによって子会社に巨額の損失を与えたとして、同社前会長を刑事告発しました。同氏が主にカジノで使ったとされる総額は100億を超え、翌日には東京地検特捜部に会社法違反(特別背任)容疑で逮捕されました。
1943年に創業された同社は、創業家による同族経営でビジネスを展開、国内の総合製紙メーカートップ3に入るまでに成長を遂げた企業です。同社以外にも、わが国には古くはトヨタ、最近ではファーストリテイリングといった、創業一族の経営で業界トップに上り詰めた優良企業がいくつも存在します。また、これらの企業の多くは社会・環境への貢献活動にも積極的であり、今回の一件でその企業統治機能が疑問視されている大王製紙も、製紙業に起因する環境負荷の低減活動を積極的に推進してきました。
創業一族の経営によるオーナー企業には、従来から語られている「企業統治における懸念」と同時に、「環境・社会貢献への熱心さ」という二面性が存在します。一見すると、相反する特徴のようにも見えますが、この点を深く掘り下げみることで、CSRに求められる本質とは何なのかが明らかとなります。

所謂オーナー企業で、熱心な環境・社会貢献活動を行なう企業には、創業時の理念が今日においても社風として根付いているという特徴があります。成功を収めている大企業では、多くの場合に創業者が起業の動機として「社会への貢献」を掲げており、特にオーナー企業では、家系に沿ってその理念が次世代の経営者に引き継がれていきます。
また、オーナー企業においては、経営と所有が明確に分離されていないことから、株主からの短期的な視点による売上げの拡大や配当の増加を求められることなく、中長期的な視点に沿った企業経営ができるという側面もあります。
その結果、オーナー企業の環境・社会貢献活動は、企業・経営者毎の個性が反映された、ユニークなものとして取組まれてきました。最近では、東日本大震災時のファーストリテイリングによる迅速な救援物資の送付と、会長の柳井氏からの個人寄付10億円を含む多額の寄付が話題となりました。また、ソフトバンクでは、社長の孫正義氏の強力なイニシアティブにより、自社のサービスにおける被災地への様々な優遇措置を実施しているほか、次世代のエネルギー問題を解決すべく、自然エネルギー分野への参入を進めている状況です。このように、オーナー企業における環境・社会貢献は、経営者個人の熱意を原動力としながら、企業としての取組みとの境界線を曖昧にしながら行なわれることが多いようです。

しかし、これらの取組みをCSRの観点から捉えた場合、境界線が「曖昧であること」は、必ずしも常によいことばかりであるとは言えません。
CSRは、その名の通り企業が社会を構成する一員たる責任を果たすことを目的とした取組みであり、その原点は「社会からの要請への対応」である必要があります。経営者に強い環境・社会貢献への思いがあることは歓迎すべきことです。しかし、その取組みが、経営者の個人的な思い入れや、企業の余剰資源の活用といった、一方的な理由によるものであった場合、社会は必ずしもその企業を「社会的責任を果す企業」と見なさないでしょう。最悪の場合、オーナー経営者の独断は、大王製紙にみられるような「企業統治における暴走」を誘発する、リスク要因となる可能性すらあります。CSRの前提には、常に「トップのコミットメント」と「社会とのコミュニケーション」の両立が必要なのです。

NGOをはじめとする市民社会からの圧力を発端とし、CSRの概念形成が行われた欧州のケースとは異なり、日本では、まだまだ属人的な取組みに対しても「顔の見えるCSR」として評価する傾向があります。しかし、独善的な取組みは、一度その方向を誤ってしまえば、社会との信頼関係そのものを失ってしまう危険性があるもので、本質的なCSRとはかけ離れたものだと言わざるをえません。
インド最大のオーナー企業であり、国民から「最も尊敬される企業」と認められているタタ・グループは、地域・社会を「自社にとってのステークホルダー(利害関係者)ではなく、存在意義そのもの」であると宣言しています。
わが国のオーナー企業は、CSRの取組みを推進する上で、大きな潜在能力を有していることは間違いありません。彼らのCSRが次なるステージに迎えるためには、タタ・グループにみられるような、社会とのオープンな関係性を確立しうる、オーナー経営者の社会感度の高さが必要となると言えるでしょう。
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