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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言-日本よ、主体性を発揮せよ-

2011年11月14日 田中均


『日経ビジネス』2011年11月14日号p.158 コラム「直言極言」から転載

日本よ、主体性を発揮せよ

TPP(環太平洋経済連携協定)への参加を巡り、国内を二分する議論が闘わされている。反対論の中には、日本の伝統が破壊され米国化が進むのではないかとか、農業が壊滅的打撃を受けるといった極論が多くあった。交渉もしていないのに、日本は不利益ばかりを被るという受け身の議論に身を委ねる人がかくも多いのに驚かされる。

TPPを積極的に推進すべきという議論でも、日本がTPPを通じて何を達成したいのか、日本の将来を考えてTPPをどう位置づけるのかといったビジョンが語られることは少なかった。

TPPの議論を通じて浮かび上がったのは、日本の被害妄想的で受動的な姿勢、主体性のなさ、戦略的思考のなさではないかと思う。このような傾向は政治だけではなくメディアや、広く日本人全般に共通するのかもしれない。

これが英エコノミスト誌の表紙に取り上げられ、昨今、日本を象徴する言葉になっている「行動できない国、日本」につながっている。
追い詰められた時にしか、日本は行動できないのか。黒船と開国、対米戦争、対米摩擦と市場開放、湾岸戦争での貢献を巡る「too little, too late(少なすぎる、遅すぎる)」という評価、ウルグアイ・ラウンドと無益な農業投資、沖縄基地の整理統合に関する問題・・・。あえて最近の例は挙げないが、受け身の対応例は枚挙に暇がない。そのマイナス面は、コストが高くなることだけではなく、被害妄想を深めてしまうことである。

<東アジアでの資源協力でリードを>

受け身ではなく能動的に行動を起こすには、積極的にビジョンを語らなければならない。日本の未来は発展を続ける東アジアにある。一方、東アジアには中国の将来や朝鮮半島問題など、不透明な要素やリスクも多い。そのような地域で日本が能動的外交を進めていくために必要な前提条件がある。

第1の前提は、相対的な力は衰えたとはいえ、これからも世界のスーパーパワーであり続ける米国の東アジアへの関与を確実に担保しておくこと。安全保障面で日米安保体制、とりわけ海軍と空軍の抑止力を常に高めなければならない。経済面ではモノ、サービスだけでなく、投資、金融、環境、労働などの分野で、米国と東アジアの経済的連携を保つことである。これがTPPである。

第2の前提は日本の市場開放・改革(移民なども含む)である。日本はTPPと並行して中韓を含む東アジア経済連携構想に向かうべきであるが、この構想で主導権を取るには、農業改革をしておくことが不可欠である。現在のような農業保護の形を残したまま、他国と深い自由貿易協定は締結できない。

東アジアにおいて同時に進めるべきは資源協力である。資源は紛争の種になりかねない。裏を返せば、資源に関する多国間協力が実現すれば地域の安定を促進できる。南シナ海、東シナ海、ロシア極東などは領土問題や国際法の解釈の違いを巡り紛争が起きやすい。しかし、領土問題における各国・地域の立場を損なわないで共同開発に着手することは不可能ではなかろう。

原子力発電の安全性の担保、再生可能エネルギー技術を巡る協力、そして資源の海上輸送のための海洋安全協力など共同で取り組むべき課題は多い。東アジア首脳会議(サミット)は今年から、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日中韓など16カ国に、米国とロシアが加わる。こうした場において、日本は今こそ、野心的な資源協力のための共同計画を打ち出すべきだ。
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