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太陽光発電にまつわる冷静と情熱のあいだ

2011年06月21日 三木優


東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本の原子力およびエネルギー政策の大幅な見直しが避けられない中、政府は再生可能エネルギーと省エネルギーを重視する方針を示している。この流れに前後して、企業側の動きも活発化しており、特にソフトバンク社長の孫氏によるメガソーラー建設構想は大きな注目を集めている。孫氏の主な発言としては、「大規模な太陽光発電所を全国に10箇所建設」・「2020年に再生可能エネルギーの比率を30%」・「休耕田と耕作放棄地の20%に太陽光発電設備を設置すると5,000万kWの出力規模になる」というもので、壮大なビジョンが示されている。

日本には再生可能エネルギーの普及に力を入れる企業が少なかったこれまでの状況を踏まえると孫氏の今回の構想は、大きな転換点になり得るものであり、政府の政策への影響度も大きいと思われる。一方で、太陽光発電が何故、これまで住宅用の比率が大きく、産業・業務用での普及が進まなかったのか、本質的な部分を理解して今回の構想を打ち上げられているのか心配にもなった。

普及が進まなかったのは、よく知られているとおり、太陽光発電の発電コストが高いためである。その発電コストの中身を見ていくと太陽光発電パネルの生産コストは下がっているものの、流通コストや付帯設備、さらには発電事業として考える場合には、土地コストや系統連系コストなどが占める割合が大きく、単に導入量が増加すればそれに伴って発電コストが低減していくような単純なコスト構造にはなっていない。設備コストを劇的に下げていくには、メーカーや専門家は現状の方式・作り方ではなく、新しい技術がベースになると指摘している。このように、短期的に太陽光発電の導入量を増やすことが、大規模な普及につながるのか不明確であると言える。

発電量の観点でも太陽光発電は効果が小さい。例えば1,000万戸(現在80万戸程度)に4kWの太陽光発電を設置したとしても最大で400億kWhしか発電出来ず、これは日本の総電力需要の4%程度である。設備容量が増加しても発電量が大きく増えない理由としては、太陽光発電の発電量は日照に左右され、設備稼働率が低いためである。そのため、同じ出力でも年間発電量は風力発電の1/2程度、火力発電の1/5~1/8程度となっている。

原子力発電に大きく依存してきた日本のエネルギー需給構造を変革したいという情熱には共感を覚える。しかし、震災復興や原発事故への対応に多額の資金が必要となる現状において、太陽光発電の導入に資金を使うことは、冷静に費用対効果を分析すべきである。そして、その結果は実際に費用負担をする企業や家庭へ示し、太陽光発電の導入のためにどこまで許容出来るのか、合意形成を進めるべきである。現状の発電コストにて太陽光発電の普及を大規模に進めると需要家の負担は莫大なものとなることから、今の脱原発の勢いだけで話を進めると計画が具体化するにしたがって、瓦解する危険性も高まっていく。日本のエネルギー需給構造を良い方向に変換するために、省エネの促進も含め、しっかりと議論をすべきである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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