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アジア・マンスリー 2011年6月号

【トピックス】
アジア経済にとっての二つの懸念材料

2011年06月01日 向山英彦


内外需の拡大に支えられてアジア経済は安定成長を続けているが、インフレ圧力の増大と東日本大震災の影響が懸念材料となっている。

■安定成長が続く一方、強まるインフレ圧力
アジア経済は総じて安定成長を続けている。2011年1~3月期の実質GDP成長率(前年同期比)は中国9.7%、シンガポール8.5%(*速報値)、インドネシア6.5%、台湾6.2%(*)、韓国4.2%(*)となった。世界経済の回復を受けた輸出の拡大に加えて、民間消費や固定資本形成などの内需が成長を支えている。景気の先行きにとっての懸念材料はインフレ圧力の増大と東日本大震災の影響である。
景気の回復と原油や食料品価格の高騰を受けて、多くの国でインフレ圧力が増大している。ベトナムでは2010年以降数次にわたり通貨を切り下げた影響もあり、CPI(消費者物価指数)上昇率(前年同月比)が4月に17.5%となった。ただし、直近のCPI上昇率が台湾で1.3%、マレーシアで3.0%と、インフレが一定程度抑制されているのも事実である。前回のインフレ時(2008年前半)と異なり、ベトナムドンを除き、アジア通貨が対ドルで増価したためである。
インフレ抑制を目的に、各国では政策金利が相次いで引き上げられている。インドでは5月に金融危機後9回目となる利上げが実施され、ベトナムでは3月に政策金利が7%から12%へ大幅に引き上げられたのに続き、4月にも13%へ引き上げられた。また、中国では輸入物価の上昇を抑制するために一段の通貨高を容認する姿勢に転じた。同様の動きは韓国にもみられ、4月に入り、ウォンが1ドル=1,100ウォンを割り込んだ。
一部の国を除き、金利は依然として低水準であるため、利上げによる実体経済への影響は限定的といえるが、インドでは4月の自動車販売台数の伸び率が10%台へ低下(3月まで20%以上)するなど、利上げの影響が表れ始めている。天候の安定により食料品価格が落ち着き始めているため、物価は徐々に安定していくものと予想されるが、今後の動向に注意したい。

■顕在化する東日本大震災の影響
東日本大震災がアジア経済に及ぼすマイナス効果には、①物流の混乱や消費の減速に伴う輸出の減少、②観光客の減少、③完成品輸入の減少、④サプライチェーン中断による減産などがある。他方、プラス効果としては、①日本国内で品薄となった財のアジアからの調達、②日本製品からアジア製品へのシフト、③アジアへの生産移転の加速などがある。
対日輸出額(ドル建て)が台湾では3月に前年同月比(以下同じ)▲2.5%となった(4月は15.5%増と持ち直した)のに対して、韓国では3月、4月(速報値、国別は20日まで)にそれぞれ53.8%増、70.1%増と加速した。これは日本企業による石油製品やLNGなどのエネルギー、ミネラルウォーター、ラーメン、乾電池などの日用生活品を調達する動きが広がったことによる。4月の日本への石油製品の輸出額は207.8%増となった。また、農林水産食品部によれば、ミネラルウォーターの輸出額は3月の396万ドルを大幅に上回る1,236万ドルを記録した。
こうした一方、対日輸入額の伸びは3月、4月と1桁に落ち込んだ。同様の動きは台湾にもみられ、4月の対日輸入額は2.4%増にとどまった。
日本の貿易統計(円建て)によると、3月のアジアからの輸入額は鉱物性燃料や有機化合物を中心に増加し17.3%増となった。他方、アジア向け輸出額は▲0.0%となった。これは上述の韓国、台湾の動きと整合的である。注意したいのは、自動車が▲23.7%、半導体電子部品が▲7.1%と落ち込んだことである。日本からの基幹部品や原材料の輸入が滞れば、自動車やIT分野の生産に深刻な影響が及びかねない。
実際、現地の日系自動車メーカーは基幹部品を日本に依存しているため、多くの企業が4月に入り減産を余儀なくされた。これにより、インドネシアでは同月の自動車販売台数が▲7.3%となった(3月まで2桁の伸びを持続)。同様の動きが日系企業のシェアが高い他の東南アジア諸国で出てくることが懸念される。東南アジア諸国とは異なり、韓国では現代・起亜グループが圧倒的なシェアを占めているため、基幹部品を日本に依存するルノー・サムスン自動車を除き、影響は限定的であり、4月の自動車販売台数は3.0%増となった。
今後注意すべきことは、半導体やスマートフォン、タブレット端末などの生産への影響である。世界的に需要が伸びているだけに、サプライチェーンの中断が長引けば、その影響は甚大なものとなろう。