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Business & Economic Review 2011年2月号

【特集 グリーン・グロース実現への道】
サステナビリティのパラダイムとエコ・コミュニケーション

2011年01月25日 井上岳一


要約

  1. 「サステナビリティ(=持続可能性)」が経営課題としての存在感を増している。最近では、競争戦略やブランド戦略の柱に据える企業も出てきており、今後、サステナビリティの名のもとに、環境や社会に対する取り組みを積極化する企業は、ますます増えていくことだろう。しかし、どんなに企業がサステナビリティをうたっても、その根底にあるのが旧来の大量生産・大量消費のパラダイムである限り、サステナブルな社会が到来するようには思えない。真にサステナブルな社会を建設するために必要なのは、大量生産・大量消費のパラダイムではなく、サステナビリティのパラダイムに基づく企業経営である。


  2. サステナビリティのパラダイムは、世界の有限性を前提に、自然、社会、経済の関係を調和させることによって、将来にわたり持続可能な社会を目指すものである。重要なのは、自然、社会、経済の内部および互いの間において、「関係の調和」としてのエコロジーを実現することであり、物質的・量的な豊かさではなく、「関係の豊かさ」を追求することである。すなわち、サステナビリティのパラダイムの根底にあるのは「関係に対する眼差し」であり、そこで求められるのは、関係を生み出しながら成長するような、関係に対する眼差しを持ったビジネスである。


  3. サステナビリティのパラダイムにおけるビジネスは、「売ること」を一義的な目的としないものになるはずである。売ることを一義的な目的とする限り、大量生産・大量消費のパラダイムを脱け出ることはできないからである。必要なのは、「売ること」よりも、自然や社会と「より良い関係を築くこと」を優先し、目の前の売上は捨ててでも、長期的な儲けを重視するような経営姿勢やビジネスモデルである。例えば、環境に良い技術の開発に成功した時、その果実を一人占めするのではなく、広く他社にも技術供与すれば、「評判」や「名声」という無形の財産を手に入れることができるだろう。また、「売り切り方式」をやめて、「リース方式」にすれば、製造・廃棄に伴う環境負荷を低めながら、顧客との間により永続的な関係を築くことができるようになるはずである。しかし、サステナビリティのパラダイムを内面化していない限り、このような経営姿勢やビジネスモデルへとシフトすることは難しい。そこで、まずはサステナビリティのパラダイムを内面化する人を一人でも多く増やすことが重要になる。そのために必要となるのが、エコ・コミュニケーションである。


  4. エコ・コミュニケーションは、関係づくりのためのコミュニケーションである。それは、身近な人や社会、自然との間に調和した関係をつくることを通じ、関係に対する眼差しを育て、サステナビリティのパラダイムを内面化させるようなコミュニケーション活動である。その結果、サステナビリティのパラダイムに基づくビジネスモデルが生まれてくるだろうから、エコ・コミュニケーションは、サステナブルな社会の実現に資するものともいえる。いずれにせよ、関係づくりのためには、単なる情報提供以上のコミットメントが必要になるから、「コミュニケーション」といいながら、サービスの提供のような活動が主体になってくるだろう。また、双方向的であることは勿論、関係が育つのをじっくりと待つことも不可欠になるため、売ることを一義的な目的とした、自画自賛的で一方通行の、しかも、即効性を求められる従来のコミュニケーションとは、似て非なるものとなる。


  5. 企業は多種多様な関係が交差する場であるから、企業における変化はあらゆる方向に影響をもたらすものとなる。企業がサステナビリティのパラダイムを内面化し、自然や社会とより良い関係を築くことを目指せば、世界もまたサステナビリティに向けて大きく動き出す。それが企業という存在が持つ可能性である。しかし、今の企業の多くは、その内部においても、外部との関係においても、関係の調和という意味でのエコロジーからは程遠い状態にある。ストレスに満ち、仕事の意味を見いだしにくい労働環境のなかで、心身共に不健康な人々が量産されている。関係の調和と程遠い状態では、関係に対する眼差しは育たないし、サステナビリティのパラダイムが内面化されることもない。今、必要なのは、企業自身のエコロジーの回復である。


  6. 身近な人や社会、自然との間につながりが生まれると、人は生きる喜びや仕事の意味を感じられるようになる。企業のエコロジーを回復するために必要なのも、このような身近な人や社会、自然とのつながりを取り戻すことだろう。そして、つながりを取り戻すには、売ることを目的としない、純粋な関係づくりのためのコミュニケーションが有効である。ここに、関係づくりのコミュニケーションであるエコ・コミュニケーションの役割がある。


  7. 自然界では、生物相互の関係の網目が豊かになればなるほど、環境変動に対してロバストなエコシステム(生態系)になる。そして、エコ・コミュニケーションが目指しているのも、企業が、自らを取り巻く世界をどれだけ豊かなエコシステムにできるか、ということである。ロバストでサステナブルなエコシステムをつくることは、企業自身のサステナビリティ(=永続性)を高めることになる。このことに気付くことができれば、企業は、純粋に自らのEGOから、サステナビリティのパラダイムを内面化するようになるだろう。
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