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Business & Economic Review 2010年12月号

【特集 成長戦略とグローバル化】
企業の農業参入に向けた課題-先進的農家と先行参入企業の事例に学ぶ

2010年11月25日 蜂屋勝弘


要約

  1. 農業に成長産業としての可能性を追求し、新規参入を検討したり、すでに参入している企業が増えている。一方、農業界でも異業種の経営スタイルを取り入れるなど、若手農家を中心に農業の成長産業化を狙う動きが広がりつつあり、異業種の企業が新たなフィールドとして新規参入できる土壌が育ちつつある。

  2. 企業の農業参入の主な目的としては、①新たな収益事業として参入するケース、②仕入の一環として参入するケース、③広報やCSR活動の一環として参入するケース、の3ケースを指摘できる。

  3. 農業参入の際、どのようなタイプの農業を選ぶかは、経営戦略上の課題であり、参入目的にも依存する。そこで、三つの参入目的ごとの望ましい農業のタイプと留意点を記すと、①収益事業として参入する場合は、平地で広い農地を必要としない野菜等が有利と考えられるものの、野菜農家や果物農家にはプロ農家が多いことから、自社作物の際立った差別化を図る必要がある。②仕入の一環として参入する場合も、基本的には平地で広い農地を必要としない野菜等が有利と考えられるものの、酒造会社が米作に参入するなど、自社の取扱品に合わせた取り組みにも可能性がある。③広報やCSR活動の一環として参入する場合は、中山間地域での農業参入が最も目的に適うと考えられる。

  4. 企業が農業参入する際に押さえておきたいポイントについて、先進的農家や先行参入企業へのヒヤリング結果を整理すると、①マーケットインによる生産と販売価格の維持、②地の利の確保、③生産技術の研鑽と生産工程の見える化、④農業を軸にした高付加価値化、⑤地域との調和と長期戦を覚悟した参入の5点を指摘できる。一方、行政側の対応として、①参入企業の地域社会への浸透支援、②耕作面積拡大のための環境づくり、③行政部内の連携強化が求められる。

  5. 企業が農業に参入する際に忘れてならない重要なポイントは、地域に受け入れてもらう形での展開を行うことである。そこで、地方自治体や地域住民が企業の農業参入をどのようにみているかをみると、まず、地方自治体は基本的に企業の農業参入を後押しする方針を採っている。これは、企業が地域の農業に参入することで、農業の新たな担い手を確保できるほか、地域活性化への期待も大きいためである。一方、地域住民については、企業に対する不信感が依然として根強いものの、参入企業のもたらすメリットへの期待も大きい。企業には、自社の農業参入を地域活性化に向けた地域ぐるみの取組みにグレードアップさせるなど、地域との融和を図りつつメリットを引き出す戦略が求められる。

  6. 農業にとって経験の蓄積は重要な要素であり、参入企業には異業種で培った経営スタイルや異業種ならではのアイデアを駆使するとともに、農業の経験を地道に積み上げることが求められる。この点、農家には優れたノウハウが蓄積されており、企業の農業参入の成功には企業と農家が強みを補完し合い、互いに発展することが重要といえよう。
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