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Business & Economic Review 2010年7月号

【特集 京都議定書削減目標と環境ビジネス】
マンションから実現する電力利用における主体性の発揮

2010年06月25日 松井英章


要約

  1. 低炭素社会の実現を求める声は高まる一方だが、需要変化への対応の容易性から、依然、エネルギー源の多くは化石燃料に依存している。一方、風力発電/太陽光発電のような低炭素電源は、出力コントロールが難しく、電力需要に応じた供給体制を維持するうえで多くの困難を伴う。こうした電力供給上の課題がありながらも、低炭素電源の使用割合を高める方策を考えていかなければならない状況となっている。


  2. 低炭素電源による発電出力と電力需要のギャップを解消するうえで、有効かつ活用しやすいのは蓄電池である。しかし、CO2排出量を1990年比で80%減らすという将来の低炭素社会実現に向けて求められる蓄電池量は膨大である。電力の低炭素化を図るうえで一定量の蓄電池が必要であることは確かであるが、蓄電池だけに頼った電力供給体制を考えることは現実的でない。


  3. 低炭素電源の大量導入に当たって、蓄電池に過度に依存しないもう一つの方策は需要コントロールである。供給量が少ない時には需要も少なくする、という考え方である。需要のなかにも、空調や給湯のように、供給側がある程度コントロールしても問題がないものと、TVのように困るものがある。こうした制御を多数の世帯に対して統計的手法も含めて行えば、大きな効果をもたらすことができる。ただし、需要コントロールという発想自体が、電力会社のポリシーと相入れず、需要側も供給側からの要請がない段階で積極的に取り組むモチベーションは喚起しづらいのが現状である。


  4. 省エネ法施行以降、エネルギーを多消費する需要家は一定の需要コントロールの努力をしてきたが、再エネ利用のために需要コントロールの導入が可能なのは、エネルギー利用の主体性をもつという意味で、法人よりも一般家庭が考えられる。なかでも、各種方策の導入コストを大規模化の効果で低減できる、マンションがその対象として有望である。


  5. マンションにおける需要コントロールの採用については、法規制がないため、住民の視点で検討しなければならない。住民からみた、マンションにおけるエネルギー利用の在り方や付加価値は、電力利用に対する主体性の発揮、コミュニティの醸成、利便性・安全性、コストの4点にあると考えられる。これらの観点を踏まえた多様なサービスが考えられる。


  6. 多様なサービスの導入を容易にする環境づくりとして、電力会社との電気需給契約をマンションとして一つにすることが重要である。さらに、スマートメーターをはじめとした電気需給情報のデジタル化を行うことが求められる。これらの基盤づくりを行うことで、マンションディベロッパーにとっても魅力あるサービス提供が可能になる。


  7. これらの一括管理方式は、電力自由化をもう一歩推し進めれば、マンション以外の分野にも応用することができる。例えば、新規の分譲住宅群であれば、マンションが縦方向に伸びるコミュニティであるのに対して横方向に伸びるコミュニティであると捉えることで、同じようなシステムを適用することは技術的に可能である。それを街全体として展開していくことを通して、都市としてのエネルギー需給の在り方の検討まで発展していくことになると考えられる。
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