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日本の提案力

2010年06月08日 副島功寛


経済産業省がまとめた「産業構造ビジョン」では、今後の日本経済を担う5つの戦略分野のひとつとして、「インフラ関連・システム輸出(鉄道等)」が掲げられました。

日本には都市インフラの根幹をなす優れた環境技術や交通システム等があり、新興国をはじめとした諸外国からも高い評価を受けています。こうした日本の匠の技を海外に提供し、双方の国益につなげることは望ましい一方、今、日本にあるシステムをそのまま輸出するという考え方にとどまれば、日本の提案が受け入れられる可能性は低くなります。

日本の交通システムに対しては、諸外国からよく驚きの声を聞きます。鉄道の定時運行技術、鉄道・バス・タクシー等、複数の交通手段間の連携のスムーズさ、高度なターミナル機能などは、他国と一線を画すものがあります。これを実現している関係者の努力は並々ならぬものですが、一方で定時運行を例にとれば、正確さを担保するための巨大システム等に相応のコストを要していることも事実です。また、需要予測に基づく整備の結果、予測と実態の乖離により事業破綻を招いた例も散見されます。交通システムは、利便性を確保することと同時に、事業の効率性を高めることが必要である以上、都市の成長とともに変わる利用者の需要を的確に把握し、それにあった適度な交通システムを供給しなければなりません。そうした視点に立てば、むしろ需要と供給をすり合わせ、交通システム全体を時間軸のなかで制御していく技術こそ、繊細なセンスとこだわりを持つ日本人の強みといえるはずです。

新興国では、急激な経済成長や都市化の進展に伴い、交通システムの整備が急がれています。スケジュールの遵守に責任を負う先方担当者としては、実績あるものをそのまま入れれば良いとの考えを少なからず持つでしょう。しかし、利用者のニーズも事業環境も国により異なります。当該国の生活の質を高める交通システムを提供したいのであれば、今、日本にあるものを提供するだけでなく、その要素技術を用いて、新たに先進的な交通システムを創りあげる目線の高さが必要であり、当該国と共同で、あるべき交通システムについて議論を重ねるプロセスが必要です。交通システムは多くの外部システムとの連携が不可欠である以上、交通分野の知見にとどまらず、不動産開発やエネルギー、グリーン建築など、より多面的な視点から交通システムを捉える視野の広さも必要でしょう。そして、当該国のために本当に優れた交通システムを提供する意思を持つのであれば、より多くの関係者との議論や調整を重ねる煩わしさを受け入れる懐の深さも求められます。

今後、日本が国際社会のなかでどのようなステータスを保ち得るか。それは、諸外国に対する「日本の提案力」にかかっているような気がしています。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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