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Business & Economic Review 1997年05月号

【PLANNING & DEVELOPMENT】
21世紀の国土・地域づくりは複合・連携・ネットワークで

1997年04月25日 吉岡正彦


1.効率的・効果的な社会資本整備が必要

わが国の21世紀を展望するとき、国土・地域づくりにとって早急に対応すべき課題が山積している。 社会資本整備関連に絞ってみても、高齢社会の進展を背景とした医療・福祉費用の増加による経済の高コスト構造化や家計貯蓄率の低下に伴う社会資本投資余力の減退、道路、下水道等の既存社会資本の維持・更新費用の増加、国民ニーズの多様化およびより質の高いサービス要求への対応、地球環境問題による資源・資材等の利用の制約等があげられる。 そして、このような諸課題に対応する視点としては、以下に列記する各項目が提案できる。

1.少ない投資によって、国民の満足度を着実に高める公共投資のあり方を明らかにする必要がある。逆に言うならば、満足度の向上につながらない公共投資を抑制する、例えば二重投資の回避等の取り組みが求められる。
2.低コストで満足度の高い行政サービスを生み出す社会資本の整備手法を導入する。低コスト化を実現するための方法としては、いわゆる民活や入札制度の改善、あるいはオンブズマンや行政監査制度の導入が有益である。 また、行政サービスをより満足度の高いものとするためには、地域住民の満足度を重視した意識調査(CSの視点からの意識調査)の実施や幅広い住民参加の実現、そして事業効果測定のフィードバックシステム導入等を検討する必要がある。
3.既存社会資本の改築・改修による利用促進はもとより、少子化により、余った小学校を高齢者福祉施設等に用途転換したり、合築による施設の複合化、また施設間のネットワーク化等を進めて、安価で魅力ある施設としてリニューアルを図る。
4.これまで市町村ごとに整備されてきた文化ホールや図書館等の公共施設のワンセット整備主義をやめ、自治体間の協力による広域連携の視点から、費用負担を分担するとともに質の高い満足度が得られる社会資本整備の実現を図る。

以上に列記したように、なすべき対策は多方面にわたるが、ここでは今後の地域政策を進めるうえで重要な視点を提供すると考えられる、(3)および(4)として取り上げた公共施設の複合・ネットワーク利用および事業主体の連携に着目したい。

2.キーワードは複合・連携・ネットワーク

既存社会資本の有効活用そして効率的・効果的な公共投資を進めるための視点として、複合・連携・ネットワークの3視点を提案する。

複合とは公共施設や社会資本の物理的・機能的一体化、連携とは官-官、官-民等複数の事業主体の一体化、ネットワークとは情報手段の活用等による新しい利用機会の創造である。すなわち、個別公共施設・社会資本の単体利用から複合あるいはネットワーク利用へ、そして単独事業主体から複数主体の活用へという提案である。

人類の近代化の歴史が集団から個人主義化・個化への変遷であると考えると、本提案はこのトレンドを逆転させた個を結ぶ統合の発想に基づく。 1)機能の複合 複合とは各地域に分散立地している公共施設や社会資本を物理的・機能的に一体化することにより、効率化を図る発想である。その典型例としては、公共施設の合築がある。

公共施設の複合化は、1992年の宮沢内閣時に策定された生活大国5か年計画に関連して、いわゆる新社会資本整備とともに議論されてきた経緯がある(注1)。しかし、今日重要なのは、複数施設の一体化による単なる土地や経費の節約という合築行為にとどまらず、施設機能や利用者の複合化により、新しいシナージー効果(相乗効果)を目指す視点である。

一例をあげると、鳥取県と鳥取市が建設したわらべ館(鳥取市)があり、これは童謡の部屋とおもちゃの部屋を一体整備した複合施設である。複合化によって施設の持つ魅力が高まり、広域からの集客効果や利用者の高い満足度が生まれている。

また、利用者の複合化の一例としては、東京都心等で見られはじめた小学校と高齢者福祉施設の複合整備がある。高齢者と児童が交流することにより、高齢者は肉体的にも精神的にも若返り、子供達は高齢者から昔話を聞き学ぶという互いが新しい刺激を受けるメリットが期待されている。

この種の義務教育施設を活用した複合施設化には、都心の児童減少に伴う空き教室対策や学校敷地の有効活用を促進する効果もある。

2)事業主体の連携

次に、事業主体の連携は、官-民、官-官が中心となる。 官-民連携の典型例としていわゆる第3セクター方式があるが、この方式に限らず様々な連携形態が試みられてよい。

福岡市にあるアクロス福岡は事業コンペ方式によって県庁跡地(県有地)の再開発に民間資本を導入することにより、コンサートホール等の公共施設とオフィス、商業施設が複合して建設されている。同方式の採用により、県の建設費が節約されるとともに、施設運営にも民間活力を導入することによって集客や運営ノウハウが活かされ、県の中核施設として人気を集めている。

埼玉県産業文化センター(大宮市)、アクトシティ浜松(浜松市)等も官-民連携事業方式による好事例である。 また、官-官連携の面では、これまで広域市町村圏的な考え方が中心を占めてきたが、これもより多様な連携形態が模索されてよい。

連携パターンとしては国、都道府県、市町村間等の連携が考えられるが、なかでも地域住民に直接かかわる行政サービスを受け持つ市町村間同士の連携が注目される。

栃木県大田原市と隣接する西那須野町にまたがり建設された那須野が原ハーモニーホールは、両市町の共同出資により91億円を投じて完成したグレードの高い音楽専門ホールである。施設運営費も両市町が共同出資することによって質の高い催し物が開催でき、加えてホールの利用率が向上するというシナージー効果が生まれている。

この他にも島根県川本町等の7町村共同による悠々ふるさと会館、広島県能美町等によるのうみスポーツセンター、大分県大野広域連合による大野広域総合文化センター等の新しい事例が具体化している。

21世紀初頭にはわが国の総人口が減少期を迎えることとなり、これまで以上に地域間競争が激しくなる時代変化を考えれば、縄張り意識に基づいた近視眼的な市町村単位による発想から、地域相互のメリットを実現させる広域的発想が重要となる。

このような発想を提案する背景には、国民の生活行動圏の広域化がある。自動車や高速道路網の発達によって、国民は少し遠くても魅力的な大型商業施設や公共施設ができれば容易に出かけることができる。市町村単位での公共施設を整備することの意義が希薄になり、機能本位の広域生活圏が形成されつつあるといえる。

こうした広域的発想に基づくと、これまでの市町村ごとの文化ホールや図書館を整備する公共施設整備のワンセット主義ではなく、地域住民の行動圏単位を踏まえた広域的公共施設整備が提案できよう。

なお、そのための方法としては、近年再び関心が高まっている市町村合併も一方法ではあるが、その前に自治体間の連携の促進や広域連合制度の活用によって、実質的な効果・メリットを早期に実現する視点が大切であろう。

3)機能のネットワーク

既述してきた複合が施設の物理的一体化、事業主体の連携が主体間の協力関係づくりを意図したのに対し、ネットワークとは機能の連携による利用機会の創造である。高度情報化社会を迎えた今日では、情報手段の活用がその中心的役割を担う。

近年、図書館や住民票交付等の行政事務機能が広域にネットワーク化されることによって、利用者の時間や労力の節約が実現している事例がみられている。例えば、96年10月に埼玉県が埼玉都民に対する行政サービスとして、新宿駅近くにパスポート発給や住民票交付が可能となる情報センターを設けた例は記憶に新しい。情報ネットワーク化は、施設に出向く移動時間や移動にかかわるエネルギーおよび資源の節約、すなわちサービス享受にかかわるコストの節約や環境保全効果も期待できる。

加えて、距離の格差解消ができることから、複合施設化(一体化)による機能の地域的集中というマイナス面を補完する手段ともなり、また阪神・淡路大震災時に携帯電話やパソコン通信が大活躍したように、道路や鉄道の分断等、社会システムのダウンに対するリスクを分散する視点からも整備効果は大きい。

さらに、高速道路を活用した広域ネットワークとしては、中央高速道路沿いの伊那市、駒ヶ根市、飯田市等の伊那谷地域の自治体が各々専門機能を持つ病院を整備することにより、広域圏で高度医療サービス体制をつくり上げている事例がある(注2)。この事例でも高度診療の実現、施設利用率の向上、医師の交流等のメリットが実現している。このような広域連携による機能のネットワーク整備事例も近年、各地で見られ始めている。

3.相乗効果への注目

以上に述べた3つの視点は、様々な主体や機能をつなぐことによって相乗効果を実現させる発想に基づいているが、単純に何でも関連づければいいというものではない。相乗効果が生まれやすい関係、すなわち目的や機能の補完、代替、集積関係の創造等に着目し、互いの関係性の改善を目指す視点が大切である。

そのためには、何よりも複合・連携・ネットワーク化を図るコンセプトやねらいを明確にすることが大切である。また、パートナーとなる相手の立場や複合する機能の違いを理解・尊重したうえで、事業や施設総体としてのメリットを優先させる姿勢が成功へのポイントといえる。

以上のような発想は、近年、いわゆる大企業病対策として、大手企業が分社化を進めてホロニックな組織体制をつくることにより、全体と個別(部門)の利益の共存や相乗効果を図る企業経営の動きと類似した発想ともいえる。

4.インセンティブを高める仕組みづくりを

複合・連携・ネットワークの推進は、自治体等のやる気次第という面も少なくないが、現状では阻害要因も多いため、推進に向けた新たな配慮や措置が必要である。

官一官連携については、近年、地方拠点法や広域連合制度が制定され、既述した大野広域連合のような新しい事例もみられはじめている。しかし、公共施設整備にかかわる機能の複合化は監督官庁の窓口が複数になることが多いため、地方自治体等にとって事務手続きの煩雑さが実現に向けたネックとなっている。

近年における規制緩和の動きに伴い、合築にともなう必置規制(例えば、合築する2つの施設の個々に玄関や有資格者を設けなければならないという規制)の緩和等の改善傾向は認められるが、中央省庁間の連携も促進して、一層の手続きの簡素化等を早急に進める必要がある。

さらに根本的には、特定目的や用途に縛られた補助金利用のために、自治体の自由な選択に基づく施設づくりや行政活動ができていない問題が大きい。いわゆるヒモ付きと呼ばれる補助金体制を改め、関係する財源を思い切って地方に委ねることが、地方主権型国土構造を実現するためには不可欠であろう。

このような既存社会資本の有効活用あるいは公共投資の効率的・効果的な実施により、21世紀型の国土・地域づくりへの展望が開けるのではないか。

注  

1.例えば経済審議会社会資本整備委員会検討報告(1993年)、参照。
2.東北産業活性化センターソフトインフラ(1994年)
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