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Business & Economic Review 1996年03月号

【PLANNING & DEVELOPMENT】
地方空港民営化に関する考察

1996年02月25日 社会システム研究 岡田孝


1.はじめに

これまで空港はほとんどの国において、政府や地方公共団体が中心となり公共施設として整備がなされ、公益事業として国や地方公共団体が直接運営してきた。しかし、国際航空の進展などにより商業収入が確保され、空港の自主財源が増大したことや、国の公共投資への財政抑制策によって、空港の財務について独立採算が求められるようになり、空港の所有、管理運営形態も多様化している。

わが国の地方空港は、96年3月末(嵐・で、61空港(うち47空港はジェット化、21空港が大型化)となり、地方空港は施設整備面において一応の量的充実をみたといえる。

地方空港は効率的な管理運営の時代を迎えており、これからは施設整備だけではなく、空港をビジネス機会としてとらえ、有効活用していく時代である。

そこで、本稿では80年代後半から欧州の航空先進国を中心に世界的に広がっている空港民営化の動きに焦点をあて、新たな所有、管理運営形態への移行のために必要となる地方空港民営化について考察してみる。

なお、「空港民営化」の定義には、株式会社化だけでなく地方公社化なども含めている。

2.空港の経営形態と民営化

現在、世界の空港でとられている主な管理運営タイプと空港民営化の関わりについてまとめると、以下に示すとおりとなる。

(1)国公有・国公営を原則とするタイプ

国または地方公共団体が所有し管理運営するもので、わが国では新東京国際空港(成田)や関西国際空港などを除き、ほとんどがこの形態に属する。アメリカやフランスの地方空港、カナダのほとんどの空港が地方公共団体による公有公営形態をとっているが、わが国と異なり着陸料などの空港使用料を自主財源として独立採算で運営されている場合が多い。

各国の主要空港ではターミナルビルの建設と管理運営(用地は賃貸)が民営化されており、わが国では地方公共団体が中心となって設立した第三セクターが事業主体となる方式が一般化している。ただし、わが国で初めてターミナルビル会社となった東京国際空港(羽田)の株式会社日本空港ビルディングは過去の経緯から民間資本のみである。

また、ターミナルビルだけではなく、空港全体の管理運営を委託する形態もある。フランスでは、地元の商工会議所に空港の管理運営全般を委託している。アメリカのインディアナポリス国際空港は、運営コンペにより選んだ海外の航空会社に空港の管理運営一切を委託している。

(2)エアポートオーャ潟eィ(空港公団)タイプ

空港経営などに特化した公共企業体として国や地方公共団体が設立する形態で、法的な形態は国によって様々であるが、大別すると、わが国の新東京国際空港のように特殊法人として国公営に近いものと、国や地方公共団体の100%出資により株式会社として民営化したものとに分けられる。いずれも国公有・国公営形態に対して、独立した企業体として長期計画を策定し、自主的に管理運営することが認められており、(1)のタイプに比べて一歩踏み込んだ民営化といえる。アメリカ、ドイツをはじめ世界各国における最も一般的な空港管理形態であり、民営化前の英国空港公団やフランスのパリ空港公団がこの形態に含まれる。

ターミナルビルの経営については、空港を所有するエアポートオーャ潟eィが直接経営する場合が一般的であるが、アメリカでは航空会社がターミナルビルを所有するケースが多い。

(3)民間資本導入タイプ

株式会社として国や地方公共団体の出資のほかに民間資本を取り入れた形態で、空港民営化の代蕪Iな形態である。エアポートオーャ潟eィタイプと同様に公的な性格が強い場合も多いが、民間会社として空港経営以外の業務を手がけることが可狽ナ、ほぼ自由な活動が認められる。わが国で初めて株式会社として空港全体を経営する関西国際空港株式会社がこの形態である。また、英国で複数の空港を統括する公開有限責任会社(BAA Public limited companies:BAA Plc)は、株式を公開して国営空港公団から民営化した例として有名である。

3.空港の収入源

一般に、空港の収入には、空港使用料(着陸料や停留料など)や旅客サービス施設使用料などで告ャする航空系収入と、オフィス賃貸料のような不動産収入や酷煢c業料などの非航空系収入がある。非航空系収入は免税店などのショッピング施設、レストラン、レンタカー会社、医療施設、美容院、レジャー施設などの酷煢c業料のほか、保険代理店収入、広告収入など多岐にわたる。

しかし、わが国では、空港整備システムが、航空の空港使用料を一旦、国にプールし再配分するというシステムをとっているため、地方空港自体は、いまのところ航空系収入をもたない。それでは、非航空収入の実態はどうでろうか。

まず、第1種空港をみると、株式会社日本空港ビルディングは、わが国最大の航空旅客数を背景に、年間営業収入538億円(94年度実績、ただし国際線売店を除く)を持つ。また、様々な関連事業を展開している関西国際空港株式会社の非航空系収入だけをみると、年間325億円(94年度実績)となっている。

主要な地方空港については、ほとんどの空港が収入を伸ばしており、新千歳空港のターミナルビルを経営する北海道空港株式会社が年間393億円という突出した収入を持つ。また、近年国際線が充実してきた名古屋空港および福岡空港のターミナルビル会社は、ともに4期続けて年間収入100億円以上を維持している。

ターミナルビルの規模や、航空旅客の特性、業務の内容、母都市との位置関係などによって、空港ごとに収入国「が異なると考えられるが、(1)幹線空港(新千歳、名古屋、福岡など)クラスは、すでにかなりの収入力を有していること(年間100億円以上の営業収入を維持している)。また、(2)なかでも国際線の充実により免税売店という大きな収入源を有するとともに、関連業務が拡大し、多くの収入機会を得ていること、という見方ができる。

地方空港は、90年代に入り急速に国際化が進展し、現在18空港が国際定期路線をもち週約430便が就航している。商業的資源としての地方空港のポテンシャルも、関西国際空港には及ばないものの着実に向上しており、今後もさらに需要規模の拡大が卵ェされる。地方空港が企業体として、独立した様々な事業が成立する可柏ォを持つことを認識する必要がある。

4.空港民営化の必要性

80年代に進められた英国の空港民営化は、空港の商業的な企業としての管理運営と、民間資本の導入による空港経営の効率化を必要施策として位置づけ、(1)企業会計制度の導入による収支の透明化、(2)財務の独立採算による整備責任、管理運営責任の明確化、(3)商業的事業への業務拡大による収益力の強化、などを図るものであった。

わが国の地方空港が空港全体の民営化を指向する上で、英国の空港民営化に見習うべき点として、(1)空港全体について企業活動としての経営概念の導入したこと、(2)地方主導型の管理運営形態を徹底したこと、(3)空港経営を公益事業中心から複合的な営利事業へと位置づけたこと、などが指摘できる。

現在、わが国の地方空港では、ターミナルビルについてのみ基本的に第三セクター、空港本体は行政という分担がなされている。しかしながら、地方空港の施設整備が進み、全国に路線ネットワークが充実してきた今日において、もう一歩踏み込んだ経営形態を指向してもよいのではないだろうか。また、地方空港のターミナルビル会社のほとんどは、ビル経営のみであるため、新規の投資が限られ、極めて安定した収支国「をもち地域の優良企業となっている。この状態を変更する必要性があるのか、という問題があるが、あえて地方空港民営化の必要性を3点ほどとりあげたい。

第1に、地方主権が求められてくるこれからのわが国において、地方空港の経営もその例外ではない。経営状況のデスクロージャーが必要であり運営責任の所在を明確にするとともに、必要な整備は地域が主体性をもって行うべきであり、ターミナルビルだけではなく、空港本体も一体として民営化すべきと考える。

第2に、必ずしも民営化や民間委託が運営の効率化につながるとは限らないが、公共公益性の強い空港は社会資本として効率的な運営を図る必然性をもち、あらゆる効率的な空港経営の可柏ォを探ることが必要と考える。その選択肢のひとつとして民営化は有力な方法とはなりえないか。

第3に、各地で臨空開発が盛んなように、空港活用を地域活性化の重要プロジェクトとして位置づけている地方にとっては、空港を自己資源として、周辺開発と効率的にかつ一体的に計画、運営する企業体があるべきではないか。

地方空港の民営化は、これからの地方における社会資本のあり方というマクロな面からも助ェに検討する余地と必要性があるものと考えられる。

5.空港民営化に向けての提言

21世紀も、さらに航空市場の拡大が卵ェされており、収入面においては地方空港は民営化へ移行しやすくなるはずである。今後、地方空港民営化の議論が高まることを望みたいが、民営化に向けての次の4点を留意すべきである。

第1は、民営化は地方空港の収益性、支出国「、将来計画などを助ェに見極め、段階的に実施する必要がある。進め方としては、

1. 当面、独立採算での運営が可狽ニ考えられるいくつかの幹線空港クラスの地方空港について、民営化を検討する。

2. 国際ハブ空港(関西国際空港、新東京国際空港、中部国際空港)や国内拠点空港(東京国際空港、首都圏第三空港など)の整備進捗状況に応じて、自立しうる空港(基盤整備が進んでいる第2種空港など)についても民営化する(ローカルな地方空港ほど航空系収入を大都市圏路線へ依存することになる)。
第2は、地方空港の収入迫ヘ、管理運営特性にあった民営化形態を導入することである(たとえば、地方公社や第三セクター)。また、空港用地の所有形態については経営主体への移管あるいは売却、またはリースなどが考えられるが、経営主体の財政規模や地域事情などを考慮する必要がある。

第3は、わが国の航空会社保護という面を尊重しつつも、国際空港が持つ需要と多様なビジネスチャンスにより収入の機会を増やため、できるかぎり地方空港の国際化を進める。

また、そのほか民営化にあたって考慮すべき点としては、

1. わが国の空港は地形条件の悪いところに立地するものも多く、空港の拡充、再整備に関して整備コストが嵩む。このような不利な条件を持つ空港に対しては、過去の実績を参考にして別途、支援する必要がある。

2. すべての空港を民営化することは不可狽ナあり、離島などに立地する採算性の乏しい空港については、従来どおり、生活基盤整備としての位置づけと支援が必要である。

6.今後の課題

地方空港民営化の可柏ォを検討するにあたり、大きな問題は現在の空港整備システムの延長上にこの議論が成立するか、である。

まずは、空港整備特別会計の収入から、民営化した地方空港分の空港使用料などを分離した場合、支出に影響するか否かである。

現在、国内航空旅客の77%(94年度実績)が東京または大阪を起終点とする路線に集中している。すなわち、これまで地方空港の整備は、2大都市圏に立地する空港の利用者の負担による内部補助により進展したともいえる(注)。仮に地方空港への整備財源が、民営化した地方空港分を差し引き、空整特会内で縮小したとしても、相対的にみれば、国際ハブ空港や国内拠点空港の整備財源へシフトしたかたちとなり、結果として財源分配が是正されたことになる。次に、民営化された地方空港への空港使用料などの配分方法であるが、経営主体が民間か、あるいは地方公社のような形態かによって異なる。いずれにせよ地方公共団体を通して直接的あるいは間接的に経営主体へ配分することとなる。

以上より、空港整備システムの基本的な枠組みは取り崩すことなく、対応が可狽ニも考えられる。

しかしながら、最大の問題は、今後の整備について、地方空港の財源だけで賄えるかという点である。特に将来への投資については、空港整備によって便益を得る地方公共団体が応分の財政的負担することが前提となる。しかしそのためには、一般財源の拡充(地方交付金による配分など)や整備資金の調達に関し債券の発行による自主財源の調達が認められなければならない。したがって、新たに、地方空港の空港整備に必要な資金について多様な財源確保の手段をシステム化する必要がある。たとえば、地方公共団体においては、空港の開発利益の還元を目的とした新たな税制、アメリカの空港整備において幅広く用いられている収入債(revenue bonds)のような使用目的を特定した債券の発行の導入も検討されるべきであろう。

96年度から国の第7次空港整備五箇年計画が実施される。21世紀にむけて国際ハブ空港や国内拠点空港に重点を置いた整備が進むなかで、時代に即応した空港整備システムのあり方と地方空港の民営化が今後の課題として検討されることを期待したい。

(注)空港整備特別会計の財源は、純粋一般財源、航空機燃料税からの受け入れと、自己財源となる空港使用料収入と雑収入、東京国際空港の沖合展開整備に充てる長期借入金からなる。95年度当初落Zでみると、空港使用料は長期借入金を含めた特別会計財源の38%、航空機燃料税相当額は15%を占めており、同財源の半分以上は利用者の直接的な負担である。
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