コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2000年08月号

【PERSPECTIVES】
先送りが続くマレーシア大企業改革

2000年07月25日 調査部 坂東達郎


要約

アジア通貨危機の影響で大きな打撃を受けたマレーシア経済は、輸出の伸長を背景に製造業生産が急回復し、1998年の7~9月期を底に着実に回復軌道をたどっている。しかしながら、企業部門をみると、外資系電気・電子メーカーなどで好調な輸出に支えられて、業績が急回復しているのに対して、マレー系有力企業の多くは、通貨危機の後遺症を克服できず、次々と経営困難に陥っている。これらマレー系企業に共通しているのは、企業トップと政府高官や与党との関係が深く、90年代以降の民営化の波に乗って、公営企業の払い下げや公益プロジェクトの優先的割り当てなどを通じて短期間に急成長したことである。

経営困難に陥ったマレー系企業の抱える問題は次のようにまとめられる。第1に企業経営面では、(1)政府が独占的権益や手厚い保護を与え続けた結果、企業部門に対して効率や生産性向上に向けてのインセンティブが働かなかったこと、(2)グループ内に相互に関連性の少ない事業および衰退産業を抱えていたことから、効率的な経営が行われなかったこと、などが挙げられる。第2に金融財務面では、(1)インフラ建設などの巨額資金を株式担保の銀行借り入れで調達してきたこと、(2)グループ間の株式の相互持ち合いが一般的であり、中核企業の経営危機がグループ全体に波及しやすい構造にあること、などから株式市場の下落に対して脆弱な財務体質にあったことが指摘できる。このような問題は、マレー系有力企業が、民営化された当初より市場原理とは相容れない性格を強く有していたことの証左であり、通貨危機に伴う株価下落や金融引き締めがより深刻な影響を及ぼす背景となった。

以上を踏まえると、マレーシアにとっての喫緊の政策課題は、公営企業時代から引き継いだ特権的なマレー系企業優遇措置を見直し、輸入障壁を取り払い、外資導入を進め、内外無差別の競争を導入することである。市場原理を導入すれば、競争力に欠けるマレー系企業が市場から退出を余儀なくされる可能性は大きく、そのための最大の障害はブミプトラ政策であろう。しかしながら、現在、同国を取り巻く環境は同政策の導入時と比べて大きく変化している。経済のグローバル化が加速し、地域経済が単一市場に統合されようとするなか、国家主導によって保護育成されてきた企業が生き残れる可能性は小さい。建国以来30年間にわたるブミプトラ政策を維持することが極めて高い代償を伴うものとなったといえよう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ