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Business & Economic Review 2001年11月号

【POLICY PROPOSALS】
サステイナブルな医療制度の構築に向けて-シルバー保険制度の創設と効率化プログラムの断行

2001年10月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 飛田英子、調査部 環境・高齢社会研究センター 志水武史


要約

日本の社会保障制度が危機的状況にある。すなわち、右肩上がり経済を前提に構築された従来システムが、経済成長率の下方屈折や少子高齢化の進展をはじめとする経済・社会環境の大きな変化を背景に制度疲労をきたしており、制度としてのサステイナビリティを損なっている。
そこで、日本総合研究所調査部では「社会保障制度研究会」を発足し、サステイナブルな社会保障制度のあり方について検討を進めてきた。今回はその第1弾として、医療制度と介護制度に関する改革を提言する。

日本の医療制度は、国民皆保険の達成やフリーアクセスの確立等、世界的には高い評価を受けているが、国内的には (1)経済活力の阻害、(2)国民負担の増大、(3)供給体制の非効率性の温存、などの弊害を起こしており、早急な改革が喫緊の課題となっている。
こうした状況下、政府は2002年度の実施を目指して医療制度改革を検討しているが、その内容は自己負担の引き上げや診療報酬体系の見直しなど、従来路線の延長上にとどまっており、国民の信頼や制度としてのサステイナビリティを回復するにはほど遠いとの感は否めない。

これに対して、本改革案では、負担と給付について安定的な将来ビジョンを示すことにより、国民に信頼されるとともに経済に対して中立的な制度の構築を提案する。具体的には、以下の2本を柱とする制度改革の断行により、現役世代に負担が偏重する従来の負担構造を根底から変革 するとともに、給付システムの効率性の向上を通じて医療費の肥満体質を改善する。

(1)「シルバー保険制度」の創設 現行の老人保健制度を廃止し、高齢者医療と介護を一体化した「シルバー保険制度」を創設する。具体的には、対象者を65 歳以上に引き下げ、高齢者からも保険料を徴収する一方で、現役世代からの拠出については上限つきの「シルバー保険制度支援金」に改める。この新制度の創設により、負担の世代間格差が大幅に是正されることに加えて、消費の長期不振の要因である将来不安が払拭されることが期待される。

(2)日本総研版「効率化プログラム」の断行 現行の医療供給システムには、出来高払い方式の診療報酬体系、病院と診療所の機能分化の不徹底など、非効率な部分が温存されているとの指摘が多い。そこで、診療報酬体系の包括払い方式への移行、予防医療の徹底、プライマリ・ケアの導入などを内容とする「効率化プログラム」の断行により、医療の質を確保するもとで医療費の抑制を図る。

以上の改革が経済に与える効果を試算すると、「シルバー保険制度」の創設により公費負担の割合は拡大するものの、「効率化プログラム」の断行によって医療費が抑制されるため、保険財政への影響は中立的であるとの結論が得られる。さらに、負担の世代間格差が大幅に是正されることにより、現行制度に対して不信感を抱いている現役世代の信頼回復も期待される。
本格的な少子高齢化の到来を目前に控え、社会保障制度の改革は待ったなしの状況にあるが、政策当局に対しては、従来概念にとらわれることなく、真の聖域なき改革の断行を期待したい。
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