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Business & Economic Review 2001年09月号

【REPORT】
アメリカのシンジケーション・ビジネスの仕組みとわが国での導入のあり方

2001年08月25日 調査部 メディア研究センター 西正、調査部 メディア研究センター 島田浩志


アメリカには、シンジケーションと呼ばれるネットワーク以外のテレビ番組の流通システムが確立されており、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなど211の放送市場(エリア)ごとにテレビ番組の売買が活発に行われている。そこでは、3大ネットワークが過去にプライムタイムで放送したシリーズ番組の再放送であるオフ・ネットワーク・シンジケーション番組や、ネットワークでは放送されていない新作番組であるファーストラン・シンジケーション番組の売買が行われている。シンジケーションは、ネットワークに属さない独立局やケーブルテレビにとって、番組を調達する主要なルートになっているだけでなく、ネットワーク加盟局もシンジケーションから番組を調達しており、加盟局の自主性を保つうえで重要な役割を果たしている。また、番組制作会社にとっても、ヒット作をつくればシンジケーション市場を通して巨額の収入を得ることが可能となっており、番組制作会社発展の原動力となっている。

アメリカでシンジケーション市場が発達したのは、ネットワークの番組制作・流通に対する独占的影響力を排除するために70 年代初めに制定された「プライムタイム・アクセス・ルール(PTAR)」と「フィナンシャル・インタレスト&シンジケーション・ルール(フィンシン・ルール)」と呼ばれる二つの法規制の存在によるところが大きい。この二つの法規制によって、番組をネットワーク以外から調達する必要が出てきたローカル局と、番組の所有権を確保したい制作会社との間で需要と供給がうまく合致することになり、シンジケーション市場は大きく成長するとともに、番組制作会社と放送局との力関係も徐々に変化していくことになった。

わが国の場合、制作会社のテレビ番組の制作費はテレビ局からの収入によってカバーされるのが原則である。一方、アメリカでは、ネットワークのプライムタイムにおける1時間番組の制作費は1~2億円と高額であるにもかかわらず、ネットワークが番組制作会社に支払う放映権料は制作費全体の60 ~80 %であり、不足分は番組制作会社が自己負担する。しかし、番組が高視聴率をあげ、数年間ネットワークで継続して放送されれば、その後、シンジケーション市場を通じて自己負担分をはるかに上回る収入を得ることが可能である。

アメリカのテレビ番組制作で中心的な役割を果たしているのは、ハリウッドのメジャー・スタジオである。映画会社のイメージが強いメジャー・スタジオであるが、テレビ番組制作でも、映画制作に引けをとらないビックビジネスとなっている。わが国の映画会社がテレビの台頭によって、一気に競争力を失っていったのに対して、アメリカのメジャー・スタジオはテレビを利用してさらなる成長を図ろうとし、それに成功したということができる。 メジャー・スタジオの成長のもう一つの要因は、海外マーケットにいち早く目を向けたことである。ハリウッドには何十年間にもわたって海外のマーケットを意識してソフト制作を行ってきた実績があり、その結果として、世界的な流通網を持つに至った。それによって築かれた輸出競争力は強大である。わが国の制作会社や、今後放送ソフトの制作を行おうと考えている事業者にとっては、ソフトの多元的利用が成功に向けた鍵になるが、海外マーケットへの展開ということも、この多元的利用の一環として重要な意味を持つ。

わが国の制作会社は、地上波放送局の下請け的な存在にあり、制作会社は最初にテレビ局との契約で定められた収入を得るものの、制作されたテレビ番組の大半は一度放映されるだけの使い捨て状況になっているのが現実である。今後、わが国でも、シンジケーション市場のようなテレビ番組の流通システムが創出されれば、制作会社はそこを通じて自社のテレビ番組を何度も売りに出すことで、大きな収益をあげることが可能となる。制作会社がヒット作を作り出すことへのインセンティブは、格段に高まると考えられる。また、シンジケーション市場が創出されれば、制作会社が潤うだけにとどまらず、地上波民放ローカル局や、3大広域圏において大手テレビ局との競争を強いられている独立U 局、さらには全国に散在しているケーブル局にとっても、強力な番組流通の仕組みとして機能することになる。

これまでテレビ番組の流通に消極的であった地上波キー局も、BS デジタル放送への参入を果たしたことや、地上波放送のデジタル化を目前に控えていることなどから、アメリカのシンジケーションのような番組流通の仕組みが形成されることを望み始めている。しかし、シンジケーションに対するニーズが強くとも、ビジネスとして成立させるのは、事業採算性を確保できるかどうかが重要となる。事業採算性を確保した番組流通を行っていくには、広告枠と引き換えにテレビ番組を販売する「バーター・シンジケーション」と呼ばれる取引方式を導入することが有効である。また、わが国でシンジケーション市場を立ち上げていくには、マーケット創出に向けて主導的な役割を果たすシンジケーターの活躍が重要である。シンジケーターにはハイリスクに耐えうる体力が求められることから、民放キー局、大手総合商社、大手広告代理店が提携し、それぞれのノウハウを持ち寄ることができれば、中核的な役割を果たすことができる可能性が高いだろう。
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