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RIM 環太平洋ビジネス情報 2001年4月号 Vol.1,No.1

マレーシアにおける民営化企業の破綻

2001年04月01日 坂東達郎


要約

90年代の民営化を通じて育成されたマレー系有力企業のなかでアジア通貨・経済危機の打撃から脱出できず経営困難に陥るところが増えており、政府は、公的資金を投入し、再国有化などを進めることによって救済している。これらの企業が経営困難に陥った理由として、(1)経営の見通しが楽観的で採算性を十分に検討しないまま事業を推し進めてきたこと、(2)多大な借り入れに依存し財務内容が脆弱であったこと、(3)経営トップに企業家としての経営能力が欠如していたこと、などが挙げられる。

このようなマレーシア民営化企業の持っている体質は、同国における民営化がブミプトラ政策に沿ったかたちで進められる過程において形成されてきた。すなわち、公営企業の売却や公営事業の開放の多くが、競争入札といった透明性のあるプロセスを通じて実施されたのではなく、特定マレー系企業に優先的に割り当てられ、その結果、民営化されたマレー系企業は、当初より市場原理と相容れない体質を強く持ち、また、民営化された後も政府から独占的な権益が与えられ続けた。

このような問題を潜在的に抱えながらも、民営化企業は、80年代後半から97年の通貨・経済危機まで続く右肩上がりの高度経済成長期においては、内需の力強い伸びや金融市場における資金調達の容易さを背景に、事業を拡大することが可能であった。しかしながら、高度成長の陰に隠れていた、金融環境の変化に脆弱な体質が通貨・経済危機後に顕在化し、さらに、市場開拓力や国際競争力に劣っていたことから、98年後半以降の景気回復からも取り残されることとなった。

民営化企業の救済は以下のような問題を孕んでいる。まず、世界の潮流となっている民営化推進の動きに逆行し、政府が介入することによって経営効率化や競争力強化に向けての取り組みが後退する恐れがある。次に、経営者の責任を曖昧にしたままの安直な企業救済は、企業のモラルハザードを助長させ、抜本的な企業改革を先送りする可能性が高い。さらに、公的資金による企業救済は、同国経済に対する内外投資家の信認を低下させ、同国への資金流入を細めることが不可避である。

経済のグローバル化が加速し地域経済が単一市場に統合され、各国が直接、投資受け入れや経済力を競う大競争時代において、国家主導によって救済された企業が生き残れる可能性は小さい。マレーシア政府にとっての喫緊の課題は、市場原理を導入し内外無差別な競争の整備を通じて同国経済の国際競争力を高めていくことであり、再国有化に名を借りたマレー系大企業の救済策を見直し、金融改革や企業改革などの経済構造改革を断行することである。
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