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Business & Economic Review 2001年06月号

【POLICY PROPOSALS】
少子化対策・教育改革における「親」の位置-親の教育・ケア権の保障に向けて

2001年05月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 池本美香


要約

出生率の低下に伴って少子化対策に関する議論が活発化している。一方、児童虐待、不登校、少年犯罪などの問題の深刻化に伴って、教育改革、とりわけ家庭教育への関心が高まっている。本稿では、少子化対策および教育改革の議論において、「親」がどのように位置付けられているのかに着目し、諸外国の政策動向をふまえつつ、わが国の「親」に関わる政策について検討することを目的とする。

エンゼルプランの一環として1994年にスタートした「緊急保育対策等5 か年事業」の達成率をみると、親の就労を促進する保育サービスについては、ほぼ目標が達成されている一方、在宅で子どもを育てる親を対象とした地域子育て支援センター等については、達成率が5割にとどまっている。現行の少子化対策は、すべての親に対して子育てしやすい環境を整える方向というよりは、母親の労働対策のような様相を呈している。

これに対して、教育現場からは家庭教育の充実を求める声が強まっており、文部省でも家庭教育手帳を配布するなどの動きがある。少子化対策の一方で、家庭教育が十分機能していないという問題への着目は時宜を得たものといえるが、教育改革国民会議の提案では「家庭は厳しいしつけの場」といった表現が使われるなど、そこには親がよりよい家庭教育を行えるような環境を整える方向よりも、国家が期待する教育を無償で親にやらせるかのような、上から下への家庭教育がイメージされているような印象を受ける。

諸外国の「親」に関わる政策動向を眺めると、家庭での親による教育やケアと、専門家による教育やケアを同列に扱い、親による教育やケアを充実させるための金銭的および時間的な支援の動きが注目される。一つ目の事例としては、ノルウェーおよびフィンランドで比較的最近導入された制度で、公的な保育所に対して支給されている補助金を、親が保育所を利用せずに自分で子どものケアを行う場合には、現金で親に給付するという制度がある。ノルウェーでは、制度導入によって公的な保育所の利用が減り、親による保育や民間の保育サービスの利用が促進されたことが指摘されており、一方フィンランドでは給付水準の引き上げや引き下げが出生率にも影響を及ぼしている可能性が指摘されている。

もう一つは、幼稚園や保育所といった専門家による教育・ケア施設のみに助成するのではなく、親たちによる教育やケアの活動に対しても同様に助成するという事例である。ニュージーランドには「プレイセンター」と呼ばれる親たちによる幼児教育活動の全国組織があり、政府はこのプレイセンター活動に対してすでに1943年から助成を行っている。ニュージーランドでは、80年代 後半の教育改革に伴って、プレイセンターを含む幼稚園、保育所等でのあらゆる就学前教育の活動に対して、子ども一人一時間当たりの補助金水準を定め、施設に対して助成金を支給するという「擬似バウチャー制度」を導入しており、補助金の面で専門家による教育と親による教育が同等に扱われている。ドイツのバイエルン州でも、親たちが主体的に運営する「子どもネットワーク」という幼児教育活動に対して、州独自の助成金が93年より支給されている。

義務教育レベルでは、アメリカやイギリスなどを中心に、子どもを学校に行かせずに親が子どもの教育に当たるホームスクールが増加している。多くの国で、ホームスクールは法律によって保障されており、ホームスクールを支援する団体なども増加している。

そのほか親の労働時間に関する動きとして、オランダで80年代後半以降活発化したパートタイム政策が注目される。これはフルタイムとパートタイムで、時間給賃金、社会保険、手当、年金、昇進などの雇用条件に差をつけることを禁じ、男女のパートタイムでの就労を促進することによって、家庭での子育てを可能にする方向である。

親が子どもの教育やケアに当たるためには、経済的および時間的な支援のほかに、よりよい教育やケアを行うために必要な親自身の学習機会の保障も必要である。ニュージーランドでは、前述のプレイセンター活動に親の学習コースがあり、政府もそれを助成しているほか、親の学習や、親の学習を支援する資格制度なども導入されている。

こうした諸外国の動向と比較すると、わが国の少子化対策、教育改革等の「親」に関わる政策の議論では、「親の教育・ケア権」への配慮が弱いという点が指摘できよう。「親の教育・ケア権」とは、親が子どもの教育やケアに当たるための経済的および時間的な保障と、さらには親が子どもの教育やケアに当たる上で必要な情報や精神面でのサポートを得る学習機会の保障である。それは、親が教育・ケアに当たる権利であると同時に、子どもから見てよりよい家庭教育を受ける権利でもある。

わが国においても「親の働く権利」のみならず「親の教育・ケア権」に配慮した政策への転換が期待され、そのためには前述した諸外国の諸制度の導入について、議論していくことが求められる。その際、予防的な観点から、親の学習機会の保障については、特に重点が置かれるべきである。「親の教育・ケア権」の保障に当たっては、そのことが女性の就労にマイナスの影響を及ぼす可能性や、低賃金の女性ほど仕事から離れる傾向を助長し、女性の間での経済格差を拡大する懸念があることなど、ある分野ではプラスに評価される政策が、別の分野ではマイナスの評価となる可能性がある。労働政策、男女平等政策、教育政策など、総合的な視点で、「親の教育・ケア権」を軸にした政策の見直しを提案する。
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