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Business & Economic Review 2003年10月号

【OPINION】
真の地方分権の確立と財政構造改革に資する三位一体改革を

2003年09月25日 蜂屋勝弘


不十分な現行の三位一体改革の方針
わが国の財政システムを国と地方一体で見直す「三位一体改革」が一歩前進した。最近の動きをみると、地方分権改革推進会議による「三位一体の改革についての意見」の提出に続いて、経済財政諮問会議の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(いわゆる「骨太の方針第3弾」、以下「基本方針2003 」)において、改革の大きな方向性が示された。
「基本方針2003 」で示された三位一体改革の中身を「三位」に即してみると、以下の通りである。
第1に、補助金改革については、改革期間中(2006年度まで)の改革の基本方針と、重点項目の改革工程が示され、これに即して事務事業の徹底的な見直しを行いつつ、改革期間中におおむね4兆円程度をめどに廃止・縮減・一般財源化を行うことになっている。
第2に、交付税改革については、地域間の財政力格差の調整を残す一方、財源保障機能を縮小する方針となっている。改革の内容をみると、a.地方財政計画計上人員(2003年度248万人)を4万人以上純減、b.補助金の廃止・縮減に伴う補助事業の抑制、c.投資的経費(単独)を平成2~3年度の水準を目安に抑制、d.一般行政経費等(単独)を現在の水準以下に抑制、e.算定方法の簡素化及び段階補正の見直し、f.基準財政需要額に対する地方債元利償還金の後年度算入措置の見直しなどが盛り込まれ、最終的には、不交付団体(市町村)の人口の割合を高めていく、としている。
第3に、税源移譲については、a.廃止する補助金の対象事業のなかで、引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについて税源移譲、b.その際、基幹税の充実を基本に税源移譲、c.補助金の性格などを勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、d.義務的な事業については徹底的な効率化を図ったうえで全額税源移譲する、としている。
今回示された三位一体改革の方向性については、三位一体改革自体が複雑に利害の絡んだ難問である点を考慮すると、以上のような方向性が示されたこと自体は評価出来るものの、以下の点を勘案すると、今求められる三位一体改革の内容としては、全く不十分であると言わざるを得ない。
第1に、真の地方分権の確立には程遠い内容である。地方の自立を促し、真の地方分権を確立するには、義務教育や社会保障事業よりも、公共事業における国と地方の役割分担の明確化が不可欠であり、地方の行う公共事業に対する国庫支出金を大幅に縮小・廃止する必要がある。「基本方針2003」で示された三位一体改革では、補助金削減の具体的なメニューにまで踏み込んでおらず、今後の改革論議次第では、公共事業向け補助金の一部が削減対象となる可能性はあるものの、総額の削減目標が4 兆円程度とされるもとで、一般会計・特別会計の合計で4兆円を超える公共事業向け国庫支出金の大半が削減されるとは考えにくい。ちなみに、仮に、普通建設事業費補助負担金(2003年度計画3兆8,000億円)を、2004年度予算の概算要求基準での公共投資関係費の削減率(前年度予算対比▲3%)で3年間削減し続けたとしても、3年間で3,300億円の削減に過ぎない。
第2に、一国の歳出規模の縮小・適正化の達成には不十分である。改革案では、補助金を3年間で4兆円程度削減し、そのうち義務的な事業以外については、8割程度を目安に税源移譲するとされている。したがって、仮に、裁量的な事業の補助金のみが4兆円削減されたとしても、8割が税源移譲されるため、一国のプライマリー赤字の縮小幅は、単純に計算すると3年間で8,000億円にとどまることになる。現在のわが国のプライマリー赤字が名目GDP比5.4%(27兆円)にも上ることに加え、現政権の政策スタンスとして、財政構造改革による今後10年程度の期間でのプライマリー黒字化が目標とされている点を踏まえると、改革による歳出規模の縮小・適正化効果は全く不十分である。
第3に、地方交付税の改革後の水準が不透明である。地方交付税の改革の方針をみると、地方歳出の抑制方法や基準財政需要額の算出方法の見直しなどは示されているものの、改革後の地方交付税額の具体的水準は示されていない。後述のように、地方交付税改革の眼目は制度自体のサステイナビリティーの確保と地方の自立を目指した規模自体の適正化であることから、地方交付税の改革に当たっては、改革後の地方交付税の水準自体も重要であり、改革の具体案とセットで提示される必要がある。
以上のような問題を放置したままでは、結局、三位一体改革を通じた地方分権の推進や歳出構造改革が不十分に終わりかねない。そもそも、三位一体改革を行うことの意義は、補助金の削減や地方交付税改革、税源移譲といった単なる制度の変更自体ではなく、そうした改革を通じて、真の地方分権の確立や財政構造改革を促すことである。そこで以下では、三位一体改革を意義のある改革にするため、今求められる三位一体改革の核心について整理したうえで、望ましい改革の方向性を提示する。

三位一体改革の核心
核心1:プライマリー赤字を前提にした議論が必要
現在、わが国の財政収支はプライマリー赤字の状態にある。これは、一国全体の税収に比べて、一国全体の歳出が大き過ぎることを意味する。その主因として、国から地方への補助金や地方交付税の肥大化が地方の財政規模の肥大化を招き、これがさらに補助金や地方交付税の肥大化を招くといった悪循環が指摘される。こうした悪循環を断ち切り、歳出規模をナショナル・ミニマムに抑制することが、三位一体改革の大前提とならなければならない。
歳出肥大化の悪循環を断ち切るには、補助金や地方交付税の削減が不可欠である。この際、税源移譲を同時に行うか否かが重要な論点となるが、現在のようなプライマリー赤字のもとでは、補助金や交付金の削減分を全額税源移譲するといった議論は成り立たない。後述するように、三位一体改革を行うことの目的の一つが地方分権の推進であり、その眼目が地域での受益と負担の関係の明確化を通じて、行政サービスに対する住民の満足度の向上や財政支出の効率化を図ることであることを勘案すると、一国のプライマリー赤字のもとでは、地方には、補助金や交付金の削減に際して単に税源移譲を期待するだけではなく、一段の歳出削減または、必要な行政サービスを維持する場合には、追加的な借金や増税も辞さない覚悟が求められる。地域住民が自らの判断と負担で真に必要な事業を選択出来る仕組みを構築することが、真の地方分権の確立につながるといえよう。

核心2:改革の目的のバランスが重要
三位一体改革の目的を整理すると、以下の3点に集約される。
第1は、地方分権の推進である。補助金の削減に伴って地方行政に対する国の関与を縮小させると同時に、行政サービスの提供を地方自治体の自由裁量にゆだねることで、住民のニーズをきめ細かに反映した地域独自の政策の幅が広がり、住民の満足感の向上が期待出来る。
第2は、補助金や地方交付税の肥大化による弊害の軽減である。地方の裁量の拡大と税源移譲をセットで行うことで、地方の受益と負担の関係が明確となる。その結果、地方の提供する行政サービスの質や量に対する地域住民のチェックが厳しくなり、補助金や地方交付税を財源とする場合に比べて、財政支出の効率化が期待出来る。
第3は、一国の歳出規模の縮小・適正化である。プライマリー赤字という現実を踏まえると、現状では、歳出削減を目的とした補助金や地方交付税の削減も考慮に入れる必要があろう。歳出が税収を大きく上回っている状況では、国から地方へ税源移譲するだけでなく、地方自身による増税や新規借り入れも選択肢の一つとしなければ、受益と負担の観点からバランスを欠く。

三位一体改革にあたっては、以上の目的と整合的な具体案が求められる。ただし、その際重要なのは、どの目的が最重要か(または優先か)ではなく、三つの目的のバランスを取ることである。

核心3:根拠の乏しい数値目標ではなく、よりきめ細かい議論を
これまでの改革論議をみると、「国税と地方税の比率を1対1に」や、「補助金削減の8割程度を税源移譲」というような明確な根拠に乏しい数値目標が散見されるが、これは本末転倒である。三位一体改革論議の在り方としては、個別事業ごとに地方の裁量にゆだねるべきか否かを十分吟味したうえで、個別の補助金ごとに、真に必要な補助金か、不必要な補助金かを峻別し、税源移譲の要不要を決定するのが本来の姿である。今後、具体的な改革メニューの策定に当たっては、よりきめ細かい議論が求められる。

核心4:将来の財政需要を念頭に置いた議論を
国と地方の税源配分の再構築には、将来の財政需要をも念頭に置いた議論が求められる。確かに、税源移譲がなければ地方の行政サービスの続行に支障が生じる補助金を削減するのであれば、原則として直ちに必要額を全額税源移譲すべきである。しかしながら、a.補助金の削減に中長期の期間を要し、b.その間に国税の引き上げが予定される場合には、将来の国税負担の引き上げに代わって、地方税負担を引き上げても、将来的に地方の税源が厚くなる点では変わらない。この場合、税源移譲は三位一体改革に必要不可欠な政策ではなく、単に、将来的な税源配分の再構築に向けた選択肢の一つに過ぎない。
実際問題として、現在のように、高齢化の進行に伴って将来的に国民負担の引き上げが不可避とみられる状況では、税源配分の再構築にあたっては、将来の財政需要を視野に入れた議論が不可欠である。地方分権改革推進会議の「三位一体の改革についての意見」では、この点にも言及されており、これに対して「税源移譲の先送り」とする批判は、近視眼的かつ短絡的と言わざるを得ない。
もっとも、現状では、将来の国税の引き上げスケジュールが不透明であることから、税源移譲の欠かせない補助金を削減するのであれば、削減分に相当する税源は、歳出の効率性を吟味したうえで、全額地方に移譲すべきである。

核心5:地方交付税は規模の適正化を
地方交付税は、財源の乏しい地域の行政サービスの継続に必要不可欠ながら、a.制度としてのサステイナビリティーを著しく欠く、b.補助金と相まって、地方への行き過ぎた再分配を生んでいる、c.地方の自立と活性化の阻害要因となっている、などの重大な問題を抱えている。実際、地方交付税が交付される自治体は全自治体の97 %にも上っており、地域間格差の是正を目指す所得再分配機能を超えた過度の配分が、財源保障機能の名の下に行われている。地域の受益と負担の関係の明確化を通じた真の地方分権の確立を目指すのであれば、過度の財源保障機能を見直すことによって、地方交付税の規模を大幅に縮小すべきである。

求められる三位一体改革の具体案
日本総合研究所では、財政構造改革に関して国と地方を一体で捉えた政策提言をすでに行ってきたが(「求められる地方交付税制度の抜本改革」『Japan Research Review 』2001年11月号)、以下では、その後の地方分権改革論議を踏まえたうえで、求められる三位一体改革の具体案として、改めて提示する。

改革1:地方の公共事業向け補助金を削減し、税源移譲を行わない
先述の三位一体改革の目的を勘案すると、地方の行う公共事業については、完全に地方の裁量にゆだね、国からの補助金を削減すべきである。その際、以下の観点から、税源移譲を行う必要はない。
第1に、公共事業向けの補助金が地方への行き過ぎた配分の温床となっている可能性が高い。住民一人当たり国庫支出金額を都道府県別にみると、例えば、最多の島根県は最少の神奈川県の約6倍であり、そのうち義務的経費等の格差が2~3倍であるのに対し、投資的経費の格差は約20 倍にも上っている。
第2に、このような補助金給付の実態をみると、公共事業向けの補助金を主因に、地方における受益と負担の関係が都市圏に比べて曖昧となり、このことが地方での歳出の肥大化を通じてプライマリー赤字の一因となっていると考えられる。
第3に、社会資本整備には、公平性よりも事業自体の効率性が重要であり、「借金や増税をしてまで必要か」といった厳しい視点での事業評価が求められることから、地方の行う公共事業については地域住民の判断に基づいて、地域住民の負担で行うことが望ましい。

地方の行う公共事業向けの補助金改革として具体的には、a.普通建設事業補助負担金の5年程度の期間をかけた段階的削減(3兆8,000 億円)、b.特定財源による社会資本整備の廃止(1兆円弱)、c.基準財政需要額への投資的経費の不算入(約9兆円)を行う。
これによって、社会資本整備については、国の直轄事業と地方の単独事業に明確に区別され、補助事業が存在しなくなることに加えて、単独事業についても、地方交付税による財源保障がなくなるため、地域住民による厳しい視点での事業評価が期待される。補助金削減後の地方の社会資本整備は、現在の補助事業の地方負担分と地方単独事業費の範囲内に収まるよう事業内容を吟味し、それを超える事業を継続する場合には、地域住民の合意のうえで、地方が独自で増税または地方債を発行することとなる。

改革2:義務教育や社会保障・福祉事業向けの補助金を削減する際は、原則として全額税源移譲する
義務教育や社会保障・福祉事業については、地方の裁量に完全にゆだねる必要性は乏しいと考えられる。これは、第1に、これらの事業については、事業自体の効率性よりも機会均等といった公平性がより重要であり、国家レベルで最低限度の水準の保障が求められることから、引き続き国が財源面の充実に責任を持つ必要があると考えられる。加えて、第2に、先述のように公共事業向け補助金に比べて地域格差が小さく、過度な配分の主因とは考えにくいためである。
しかしながら、現在の地方分権改革論議をみると、こうした事業についても地方の裁量に一部任せ、地方による事業の自由度を高める方向性となっており、「基本方針2003」に示された「重点項目の改革工程」をみても、義務教育や社会保障分野の補助金についても、見直し項目として盛り込まれている。こうした場合には、歳出全体の効率化の余地を徹底的に吟味したうえで、補助金削減額の全額を税源移譲すべきである。今後、義務教育や社会保障分野の補助金が数兆円規模で削減される場合には、税源移譲にあたっては基幹税の移譲が不可欠となり、その場合、所得税から住民税への税源移譲が求められる。
なお、地方消費税については、補助金削減に伴う税源移譲の対象とはしないものの、今後、高齢化の進行に伴って、地方においても医療・介護といった社会保障需要の増加が見込まれることから、将来的には負担を引き上げる必要がある。

改革3:地方交付税制度の抜本改革
地方交付税制度の問題点は、年々の地方財政計画に基づいて、地方の財源不足額に合わせて地方交付税額が決定される点にある。このため、歳出の膨張に歯止めがかからず、サステイナビリティーを確保出来ないことに加えて、受益と負担の関係が曖昧になることで、地方分権の推進が阻害されると考えられる。
地方交付税改革については、a.地域における受益と負担の関係の明確化、b.制度のサステイナビリティーを高めることに主眼を置いた改革を行う必要がある。そのために、原則として地域間の財源格差是正機能に重点を置き、財源保障機能は最低限の行政サービスに必要な財源のみに限定、裁量的な行政サービスの財源保障は行わない形とする。具体的には、以下の通りである。
第1に、5年程度の中期的なタームで総額を段階的に抑制する。地方交付税の総額を法定率分(現在は、所得税収・酒税収の32%、法人税収の35.8%、消費税収の29.5%、たばこ税収の25%)で固定し、特例加算や借り入れによる加算を廃止する。ちなみに、2003年度の地方財政計画に即してみると、地方歳入ベースの地方交付税18兆1,000億円に対し、法定率分は11兆3,000億円であることから、地方交付税の総額は6兆8,000億円程度削減されることになる。
同時に、抑制後の地方交付税総額に合わせて地方財政計画を策定することで、全体として「入るを量りて出ずるを制す」制度に改める。こうすることで、歳出の膨張に対するチェックが現在よりも働きやすくなり、サステイナビリティーの向上が期待出来よう。
第2に、地方交付税総額の各自治体への配分方法を見直す。各自治体が基準財政需要額を算出する際、a.投資的経費(約9兆円)、b.新規の地方債発行に伴う元利償還金(約4兆円)、といった裁量的色彩の濃い経費の算入をやめることで、地方交付税を地域間の格差是正と最低限の行政サービスに必要な財源保障に徹する形に改める。ただし、この改革を行うと、結果的に各自治体の地方交付税の合計が法定率分を下回る可能性がある。しかしながら、そうした場合には、改革後の地方交付税の合計が少なくとも現行の法定率分に一致するように、基準財政収入額への地方税等の算入率(75%)を引き下げるなど、地方財政に対する一定の配慮は必要であろう。ちなみに、上記の基準財政需要額算出の見直しを行うことで、算入率を20%ポイント程度引き下げることが可能になると試算される。

いずれにせよ、今後、改革論議がより具体的なステージに移行するのに伴って、関係者の利害対立が激しくなり、改革の進展が一段と困難となる事態も予想される。そうした場合には、複雑に絡む利害を調整し、改革を望ましい方向に導くために、首相による強力なリーダーシップが求められよう。
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