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Business & Economic Review 2003年06月号

【STUDIES】
デフレーションの原因分析とそのインプリケーション

2003年05月25日 調査部 IT政策研究センター 山田久、調査部 経済研究センター 小方尚子、調査部 経済研究センター 枩村秀樹


要約

  1. デフレが定着した1999年以降、日本経済は事実上の「流動性の罠」の状態にあり、そもそもデフレの主因を金融政策の失敗に求めるのは無理がある。日銀がいわゆる非伝統的手段を講じないことがデフレの原因だとする議論もあるが、「流動性の罠」の状況下、その有効性は文字通り「非伝統的」ゆえに不確実である。したがって、「インフレ目標」を設定してその具体的な手段は日銀に任せる、といった議論ではなく、非伝統的政策の波及経路を個別具体的に検討し、その功罪を明らかにしたうえで、個別の政策手段ごとの導入の可否を議論すべきである。

  2. こうした見方に対しては、金融政策は本来有効であるものの、信用乗数の低下によって量的緩和が通貨残高の増加に結びつかないことに問題があるとする考え方もある。そして、その背景として、不良債権問題を背景とする「貸し渋り」を指摘する声がある。しかし、信用乗数の低下の要因として、借り手の財務体質悪化や事業リスクの高まりという資金需要側の要因が無視出来ない。銀行行動を問題にする以前に、国内における高収益機会の減少および事業リスクの高まりという問題が底流にあると考えるべきである。この意味で、不良債権問題を背景とした銀行の「貸し渋り」という貨幣供給サイドの要因に、デフレの原因を帰着させるのにも無理があるように思われる。
    貸出残高減少の背景に「事業リスクの高まり」がある以上、「リスクマネーを十分供給出来る金融システム」の構築が目指されるべきである。将来的に民主導の金融システムを再建するとの展望のもとで、金融機関のビジネスモデル転換が可能な環境を整備するほか、ベンチャーキャピタル、ジャンク債市場の育成等、金融システム全体の視野でこの問題は考える必要があろう。

  3. 高収益機会の減少および事業リスクの高まりは「期待成長率の低下」をもたらしており、さらに、成長期待の弱まりが資産デフレを引き起こして景気低迷を長期化させてきた。
    その結果としての需給ギャップの拡大が、2000 ~2002 年におけるデフレの約6割を説明する状況にある。とりわけ、90年代入り以降地価・株価の下落傾向が続くなか、資産デフレと景気悪化の相互作用により、消費者物価水準が2.5%程度(年平均約0.2%)押し下げられたと試算される。期待成長率低下によるマイナスが資産デフレを通じて増幅されていることを勘案すると、税制面で株式・不動産投資の魅力を高めるほか、土地の収益性を向上させる都市再開発など、資産デフレに歯止めをかける施策が必要である。

  4. 中国の台頭をはじめとするグローバルな産業再編は、a.グローバルな財生産コスト低下による物価下押し影響、および、b.ネット外需(輸出-輸入)縮小、海外生産シフトに伴う国内投資抑制を背景とした需給ギャップ拡大影響―の二つのルートを通じてデフレ圧力となる。これらは99年のデフレ突入の際に大きな要因となり、2000~2002年については、a.がデフレの4分の1程度を説明する。これにb.およびa.の波及効果(サービス価格への波及)も含めれば約3分の1がグローバルな産業再編を原因としている。さらに、こうしたルートを通じた物価下落が、企業収益を悪化させて景気の落ち込みを招くという「間接効果」も含めれば、グローバルな産業再編による物価下落作用は一層大きくなる。
    ここで、アジアからの安価な製品の流入が物価を押し下げているとの説明に対し、「相対価格変化と一般物価変動を混同している」という批判がある。しかし、現実のデータをみる限り、わが国では財価格の変化という「相対価格」の変化はサービス価格変動にも強く影響を及ぼすことで、「一般物価」の変動に少なからぬ影響をyぼしている。こうした日本における財価格とサービス価格の相関の強さの背景には、a.わが国特有の産業連関の構造、b.非製造業のバーゲニングパワーの弱さ、c.「事業構造転換」よりも「コスト削減」を優先しやすい日本企業の価格・事業戦略スタイル等を指摘出来る。

  5. 以上を踏まえ、2000~2002年におけるデフレーションの原因を数量的に整理すれば以下の通りである。
    a.デフレの約6割が需給ギャップ拡大によるもの。さらに、その約3分の2が資産デフレと景気悪化の相互作用を背景としたもの。
    b.約4 分の1 がグローバルな財生産コスト低下によるもの。
    c.残りの約15 %は財生産コスト低下のサービス価格への波及効果のほか、流通革新や技術革新等の要因によるもの。

  6. デフレの要因として、中国・アジア経済の発展等を背景とするグローバルな産業構造調整の影響は相当程度大きいだけに、a.既存産業分野のアジア・中国シフトのスピード調整、b.円安を通じた輸出産業を中心とした収益下支え、の面で緩やかな円安が望まれる状況にある。
    ただし、中長期的には、中国・アジア経済の経済発展は望ましい流れであり、それは日本にとっての「市場」の拡大を意味する面がある。この点を勘案すれば、国内産業の構造転換を通じて新たな分業関係を構築していくことにより、アジア向けビジネス拡大が新たな需要を喚起して需給ギャップを縮小させ、デフレを緩和させる効果を期待することは可能である。
    したがって、中国発展に対する姿勢としては、同国の成長を取り込むことで、緩やかなデフレ圧力が続くにしても日本の経済成長を促進させる形に持っていくことが望ましい対応といえる。

  7. 加えて、強調しておくべきは、a.サービス産業の自立性の向上、b.価格戦略転換(新規事業、ブランド戦略、受注型商品)によるアンチ低価格の追求、という方向性での民間企業の自助努力こそがデフレ脱却の王道であるという点である。
    その意味で、政策的には、イノベーション喚起の支援に向けた規制改革、研究開発支出増等の施策を地道に行っていくほか、ビジネスモデル特許等独創的事業の「レント」保証政策、ダンピング規制など公正競争政策の展開も重要であろう。
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