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コラム「研究員のココロ」

普通のまちは美しくなるのか
~景観法成立に思うこと~

2004年08月23日 小長井由隆


 2004年6月11日、「景観緑三法」が参議院を通過し成立した。「景観緑三法」とは、(1)景観法 (2)景観法の施行に伴う関係法律の整備 (3)都市緑地保全法等の一部改正 のことである。その中でも中心となる法律は景観法である。景観法によって果たして我が国は美しい景観を持つ国になるのであろうか。
1.景観法の概要
 景観法は景観についての我が国における初めての総合的な法律であり、その主な内容は、「景観行政主体」(市町村または都道府県)による「景観計画」の策定、「景観計画区域」および「景観地区」の指定、「景観重要建造物」の指定、「景観協議会」の設置、「景観整備機構」の指定、などである。
 このうち景観計画区域は、届出・勧告などによる緩やかな規制誘導を行うことを目的とした区域であり、自治体独自で制定されてきた多くの景観条例による景観誘導に近い規制を想定している。一方景観地区では、景観行政主体が定めたデザイン、色、高さなどについての強制的な規制が可能となっている。この強制力を伴う規制が、これまで強制力のない条例に頼ってきた自治体の景観行政を大きく変えると考えられている。
2.いままでの景観条例の限界
 これまで自治体の景観行政は、主に「美観地区」「風致地区」「伝統的建造物群保存地区」という地域地区制度を活用するか、景観条例を独自に制定する、または両者の組み合わせによって対応をしてきた。
 景観条例は、70年代における公害問題や都市のスプロール化による乱開発に対応し、歴史的景観や自然景観の保全を目的として制定されたことから始まる。そして80年代後半より、地方都市の景観破壊に対する危機感や、物質的な豊かさより精神的な豊かさを求める考えが広まってきたことが要因となり、良好な景観創造を目的とした景観条例が多く制定された。現在では450の市町村において494の景観条例が制定されている(注1)。
 これらの景観条例の多くは、建築物の届出制度による事前協議と、違反建築物に対する指導、勧告によって景観規制を行うよう定めている。しかし、景観上好ましくないと判断された建築物であっても、建築基準法に従ったものであれば建築確認をしなければならず、「罰則」も氏名公表が限界であり、実質的には「お願い」となっているのが現状であった。しかしこれからは景観地区に指定することで、景観規制を強制的に守らせることが可能となるのである。
3.景観地区での規制により「良い景観」は作られるのか
 ところで、景観地区で規制される内容とは、「建築物の形態意匠(注2)の制限を定めるとともに、建築物の高さの最高限度又は最低限度、壁面の位置の制限、建築物の敷地面積の最低限度のうち必要なもの」である。これは、これまでの景観論争で主な争点となってきた、建物の高さの統一や、見晴らしを悪くする建物の制限、周囲にそぐわない色の制限、壁面位置の統一、いわゆるペンシルビルに対する規制、などを念頭に置いたものであると思われる。
 ここで疑問に思うのは、歴史的町並みを持つ地域や良好な景観が形成されている住宅地など、景観のあるべき姿が住民や来訪者を含めた多くの人たちによって合意されている地域では、高さや色の統一によってある程度良好な景観は維持されるだろうが、我々の身近にある普通のまちの景観は、高さや色、デザインの規制によって良好なものになっていくのであろうかということである。「自分の住んでいるまちの色は?」とか「自分たちのまちにふさわしい建築物のデザインとは?」と聞かれても多くの住民は途方にくれるだけだろう。
 もちろん景観地区に指定されない限り、景観規制をどう設定するかという問題は発生しないし、景観規制を設定しにくい地域は、景観地区に指定しなければいいだけの話である。そもそも、我々の身近にある何の変哲もない普通のまちには、良好な景観などという大層なものは必要がないという意見もあるかもしれない。
 しかし、景観法が作られるに至った大きな要因は何だったのであろうか。国土交通省が景観緑三法について解説をした資料「『景観緑三法』の制定について」によると、三法制定の背景として、「観光立国行動計画」の策定、「美しい国づくり政策大綱」の策定、「社会資本整備審議会答申『都市再生ビジョン』」、地方公共団体からの要望、が挙げられている。もちろん「公式」には上記のような背景があるだろうが、根本は多くの国民が、何の変哲も無いが美しく魅力的なまちに住みたいという欲求があったからであり、それが国に景観についての法律を作らせる力となったのではないか。つまり、何の変哲もない普通のまちにこそ良好な景観が求められているのである。
4.景観法により普通のまちは美しくなるのか
 それでは身近な普通のまちを美しく魅力的にするにはどのようにしたらよいだろうか。
 景観法では、住民、NPO、行政、公共施設管理者などが景観に関するルール作りを行う景観協議会の設置を規定しているほか、住民やNPOが景観計画の素案を策定することも可能となっている。このように、住民の積極的な参加による景観形成を進める仕組みが、制度として準備されている。これらの制度を活用した上で、住民によって自分たちのまちの特徴を発見するという作業が、身近な普通のまちを美しくするということにつながるのではないか。
 景観地区は確かに積極的な景観誘導をしたい地域には有効であるが、それは景観のあるべき姿に合意がされているような、いままで何らかの努力がなされてきた地域である。しかしだからといって、景観法が我々の身近なまちを美しくすることについて無力であるということではない。むしろこの法律を出発点として、普通のまちを美しくする努力をすることが、自治体や住民に求められているのである。

(注1)
平成15年9月30日現在、国土交通省調べ

(注2)
形態意匠とは「形態又は色彩その他の意匠」

※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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