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コラム「研究員のココロ」

IT戦略を考える

2004年05月31日 宇賀村泰弘


 「情報システムは戦略的に利活用しなければならない」という声は、耳が痛いほど聞かれる台詞であるが、はたして、情報システムを戦略的に利用している企業がどれほどあるだろうか。情報戦略がなぜ必要か、どのように立案するか、また、どのように検証すべきかを正確に理解して実行できている企業は少ない。単にシステムを導入すれば、効率化が出来るわけではない。情報システムは人間の知恵や意志とITが融合され高度なツールとなって、真の戦略的利活用を図ることができるのである。

1.ITの本質を考える

さて、ITを戦略的に利用することを考える前に、そもそもITとはどんなもので何をするためのものかを確認しておく必要がある。筆者が考えるITとは、「インプットした情報になんらかの処理を施し、人が理解できる形で出力した上で、人がなんらかの判断を行い行動へつなげるもの」である。ITを利用するにあたりインプットとアウトプットとの二つの側面を意識的に分けて考える必要がある。

<図I> ITの本質



 インプット面におけるITの活用では、業務オペレーションと密接な関係をもち、効率化、標準化によるコスト削減に繋がる。具体的には、企業内において、把握できていなかった情報、もしくは、紙ベースでの情報を集めていたものを、ネットワーク化した上で、適切な業務アプリケーションを導入することにより、業務効率を向上させ、部門間で異なっていた業務プロセスを標準化することである。アウトプット面では、得られる情報を材料として人間が意識的に判断を行うことによる活用が主となり、売上増に結びつけるべきであろう。このようにインプットとアウトプットでは、その目的が異なる。一般的に、経営者はこの側面を意識してIT戦略を考えるが、そのバランスを考えたIT戦略立案ができていないことが多い。この二つの側面の違いを意識せずにIT戦略を立案することは非常に危険なことであり、結果として開発されたシステムが何の効果も得られないことになりかねないのである。

 例えば、インプット面だけを意識したIT戦略はコスト削減を実現できるかもしれないが、長期的な企業成長を阻害してしまうこともある。例えば、時間的、人的余裕がない、もしくは短期的なコスト削減目標達成のために、本来あるべき企業経営管理情報を十分に検討せずに、現在の業務をそのままシステムとして開発することがよくある。その後、事業環境の変化に対応するため、経営管理情報を見直すが、既存のシステムではデータが集められない、もしくは集めるために非常にコストがかかるということが後から判明するのである。残念ながらこうしたシステム開発が随所で行われている。何をアウトプットとすべきかを意識せずにインプットを考えるということは、意思決定に必要なアウトプットが得られず、結果としてマネジメントが企業経営に必要なだけの情報が得られない。

 また、その逆も考えられる。アウトプットを重視するあまり、詳細なインプットを集めたが、集められた膨大なデータは、結局誰も使わない、使えないものになってしまうこともある。これは、少なからずとも、導入を行うSIやソフトウェアベンダーにも課題がある点である。「ITでこんな細かい情報を集められますよ」ということを謳い文句に、導入を進め開発が終わるが、その後の経営において集められたデータを適切に把握、理解し、意思決定に結びつけられていない状態に陥っている企業も多い。

2.本質的なIT戦略立案のポイント

 このようにアウトプットを重視してIT戦略を立案すべきだということはわかるが、それではアウトプットをどのように定義すればよいのだろうか。一般的にはアウトプットは、大方の場合、経営者のニーズと一致し、経営者は、自分が欲しいと考える情報を求め、ITはそれを提供しつづけてきたといえよう。しかし、現在のように情報量が爆発的に増大し、あらゆる角度で情報を見ることができる現在、経営者が自身の頭で必要と考える情報だけでは、経営が難しくなっているといわざるをえないのではないだろうか。つまり、ITの機能により提供される情報を受動的に把握し、能動的、意識的に必要とする情報とを合わせて総合的に判断を下す必要がある。
 
 これは非常に重要な時代の変化ではないだろうか。筆者は図ⅡのようにIT戦略立案の考え方は、バランス重視型に近づいているように思える。1980年代まではITはマネジメントやオペレーションを既存のやり方で実現するべくシステムが作られていた(マネジメント偏重型)。その後、1990年代後半に入り、ERP(統合基幹情報システム)に代表されるように、ITに業務を合わせるというスタイルが主流となった(ITツール偏重型)。いずれにも問題があることから,今後は、ITの機能を追加開発してでもフルに使う部分と、コスト削減のためにITにあわせる部分とを分ける考え方、つまり、マネジメント-ITバランス型が主流となっていくべきであると筆者は考えている。

<図II> IT戦略立案の傾向



 結局のところ筆者が考える本質を見据えたIT戦略立案の重要ポイントは、以下の二点である。

(1)「情報を活用するという観点に立ち返り、アウトプットを重視してインプットを考えるべき」

(2)「マネジメントの立場からの欲しい情報だけを意識するのではなく、ITで何ができるか(変えられるか)を理解し、そのバランスを取って立案すべき」

 更に言えば、ITで何ができるか、変えられるかを考えるということは、「利用するITツールを理解した上で、使わない機能を決められることである」といえる。例えばパソコンの表計算で考えるとわかりやすい。セルの合計機能だけしか知らずに、その機能を使うのと、テーブル参照や統計解析の為の関数を知った上で、この合計機能を使うのとでは、大きな違いがあるということである。ツールの全体を理解した上で、使い方を選択するということは、想定外の状況、または多様な状況にいざとなれば対応できる柔軟性を持っているといえる。そうした考えを元にしてIT戦略を立案することが、今後より重要になるのである。

3.フレームワークがカギを握る

 理想の形を考えるのであれば、マネジメントでしたいこと(マネジメントのニーズ)と、ITで出来ることは、IT戦略上では常にバランスが取れていることが望ましい。図Ⅲのように、マネジメントのニーズの変化(ラインA)と、IT技術の変化(ラインB)を柔軟に捉え、それに応じた長期的な視点での情報戦略のポジション(ラインC)がとられるべきであろう。

<図III> マネジメントとIT技術のバランスを取ったIT戦略



 しかし、バランスを取るのは非常に難しいのである程度のフレームワークを利用して、整理するのが望ましいだろう。また、昨今話題になっているEA(Enterprise Architect)などもアプローチは違うが、IT戦略を構造的なフレームワークにはめて把握する手法の一つである。こうしたフレームワークの重要性は、IT戦略立案において、より重要になることは間違いないと思われる。なお、筆者は現在、このような基本的な考えのもとフレームワークを考察中であり,近いうちご紹介したい。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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