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コラム「研究員のココロ」

情報システムの統合を考える

2004年01月26日 橋本隆信


 大手都市銀行の合併統合作業も一段落し、大規模な情報システム障害が発生したこともそろそろ忘れ去られようとしている今、改めて情報システムの統合について考えてみたい。

「1+1=5?!」

 2つの情報システムを統合する際にはいくつかのパターンが挙げられる。
① 全く新しい情報システムを構築、稼働させ、各々のそれまでの情報システム(旧システム)を最終的に1つの新情報システムにすべて移行するパターン。
 この場合は各旧システム、各移行システム、新システムが稼働することになり、一時的に最大で5システムが存在するが最終的には新システムに統合されるため、「1+1=5→1」である。
② どちらか一方の情報システムに他方を寄せ、旧システムの一方を生かし、他方を廃止するパターン。
 この場合は各旧システム、一方の移行システムとなり、最大3システムとなるが、最終的には一方のシステムに統合されるため、「1+1=3→1」である。
③ 既存の情報システムを生かしつつ、統合した情報システムも新たに構築し、新情報システムを中心として各旧情報システムも並行して稼働していくパターン。
 この場合は各旧システム、各旧システムから新システムへのデータ提供用の情報システム、新情報システムとなり、この状態が統合後にも存続するため、「1+1=5」となる。

「誰が情報システム統合の方向性を決めるのか?」

 情報システムの統合を普通に考えれば、前述の①もしくは②を選択し、③は思いつきにくい。ところが実際に③のパターンも存在するのである。
 情報システムの統合の際にはCIO(Chief Information Officer:情報統括役員)の役割は非常に重要である。情報システムの統合作業は通常、「情報システム統合分科会」のような組織によって検討される。ただし、ここでの検討は統合の方向性が明確に出されている場合と出されていない場合では大きく違うのである。
 例えばCIOから「情報システムは一方に寄せる」と示された場合、先の分科会では、いかに一方の情報システムに寄せるかを検討することになる。このような明確な方向性があれば、統合作業自体が迷走することは稀である。
 では「情報システムは各々の良いほうを活用していく」と示された場合はどうだろうか。分科会ではまず各情報システムの優劣をつけるための情報を集め始める。当然、関連するサブシステムに関しても一つずつ検討する必要が出てくるため、分科会はさらに細分化され、各々で綱引きを始めるのである。これでは結論を出すまでの時間も費用も労力も大幅に増大することは避けられない。
 誰もが慣れ親しんだ情報システムを存続させたいのは当然である。しかし時間と費用が限られた統合作業では何よりも情報システムを統括するトップの英断と明確な方向性が何よりも必要である。

「CIOに求められるもの」

 ではCIOと名の付く役員さえいればいいのか?CIOに望まれるのは情報システムへの本質的な理解と洞察力と、統合作業自体を冷静に見つめ、判断できる資質である。出来れば情報システム開発の現場がわかる人物が望ましい。
 SEは頑張り屋である。どんなに進捗が遅れていようとも何とか期日までには間に合わせようと努力を惜しまない。しかしそのような状態で完成した情報システムの品質には、大きな期待は持てない。
 CIOは分科会から報告された「多少の遅れはありますが、何とかキャッチアップします。」という類の報告を鵜呑みにするのではなく、時には詳細な部分まで突っ込んで重大な問題がないか慎重にチェックする行動も必要である。自らの対応や社内の体制に自信がもてない場合は、外部の専門家に依頼したりすることも必要である。開発費用が膨大に膨らんだり、スケジュールが大幅に遅れたりした場合のことを考えれば、外部の専門家への委託費用など微々たる負担である。

「情報システム統合のポイント」

 企業に限らず、自治体においても合併による情報システムの統合が加速しつつある。これからの情報システム統合においては、以下の点が特に重要である。
① 統合形態の早期決定。
早い時期に統合形態及び統合後のビジョンを明確にすることで、統合までの限られた時間の中で、安全かつ正確な統合作業を実施していく。
② 第三者的な客観的視点での判断機能。
 統合する情報システムの関係者だけではお互いの思い・感情がぶつかり合うことが多いため、統合後の情報システム像を冷静に判断できる人間を統合作業に取り込む。
③ 開発現場に精通したCIOの存在。
 実際に情報システム開発を行ったことのある役員クラスが陣頭指揮をとることで、現場の情報を逐次吸い上げていく。 

実際の統合作業にあたる準備段階から以上のポイントを考慮して取組み、新たな門出をシステム統合作業の成功ともに祝って頂きたい。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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