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コラム「研究員のココロ」

行政サービスの民間開放の促進に向けて
地方自治法の一部改正のポイント- (前編)

2003年12月08日 小松啓吾


「今日、ちょっと気になる記事を見つけました」
 去る週末の午後、仕事のために外出し、最寄り駅の近くで食事をしていた私に、駅前で待ち合わせた後輩がそう言って新聞1)を手渡してくれました。私は気分転換のため、週末はなるべく新聞を読まないようにしているのですが、今回は確かに彼の言う通り、気になる記事でした。
「行政民間開放『特区』型で」「民間開放、制度が阻む」
 など、行政サービスの効率化を研究テーマにしている私にとっては、興味をそそられるタイトルが並んでいました。なるほど、彼の目にとまったのも、うなずける話です。

 記事の内容は、政府が、規制緩和政策の一環として現在進めている「特区方式」(全国一律に適用されている各種の規制について、地域の特性などに応じて特例を設ける方式)を活用して行政サービスの民間開放を推進する方針を固めた、というものです。地方自治体の裁量で公共施設の管理運営に関する民間への委託を広げられるようにし、地方自治体の財政効率化や地域の雇用創出につなげることが狙いとされています。また、一部の省庁では「指定管理者制度」という新しい制度を活用して、公共施設の管理運営の民間開放を進めていく考えのようです。

1)日本経済新聞 2003年11月24日 朝刊

公共施設の管理運営に関する法的な制約

 公共施設の管理運営、と言っても、一般の方にはあまりピンと来ないかもしれません。国もそうですが、地方自治体は通常、住民に対して様々な行政サービスを提供することを目的に施設を設けています。例えば、教育の分野であれば学校や幼稚園、生涯学習であれば図書館や公民館、保健であれば保健所、水道であれば浄水場や配水場、といった具合です。このように、地方自治体が住民の福祉を増進する目的のために設置する施設は、広く一般的に「公共施設」と呼ばれており、施設の管理やサービスの提供に必要な日常の業務については、通常、地方自治体が職員を配置して行っています。また、地方自治の憲法とも言うべき法律である地方自治法においては、これらの公共施設の多くを「公の施設」と定義しています【第244条】。

 ここで、地方自治法を詳しく読み込んでいくと、「公の施設」の設置や管理運営に多くの制約が設けられていることが分かります。まず、地方自治体が「公の施設」を設置する場合、設置に関する事項や運営上の規定などについて、あらかじめ条例で定めておく必要があります【第244条の2】。次に、施設の管理運営を行うにあたっては、「普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるもの又は公共団体若しくは公共的団体」以外の団体、すなわち一般的な民間企業に委託することができないとされています【第244条の2 第3項】。

 例えば、地方自治体が文化ホールの管理運営を委託する場合、管理運営委託の相手先は地方自治体が出資する文化振興財団のような団体となります。ここで、民間事業者への委託を進めようとしても、その内容は清掃業務、警備業務、料金徴収代行業務などの個別業務に限定されます。さらに、出資法人などに施設の管理運営を委託する場合であっても、あらかじめ条例で定めておくことが義務付けられています。

 このように、公共施設の管理運営については民間事業者への委託が法律で制限されているため、仮に地方自治体が運営形態の抜本的な見直しを図ろうとしても、独自に仕組みを変えることが困難とされてきたわけです。

行政サービスは行政自らが実施すべきである、という考え方の是非

 その理由はいったい何でしょうか。簡単に言うと、これまでの地方自治法において「公共施設の管理運営は、原則として、サービスの提供主体たる行政が責任を持って行うべきである」という考え方が貫かれているためです。この考え方は、行政サービスの永続性、確実性、安定性などを担保するという意味において、一定の意義があると考えられます。

 しかし一方で、近年の厳しい財政状況下において、コスト削減などの観点から公共施設の管理運営手法の見直しが求められています。「民間の人材を登用することで、職員の雇用・勤務形態を効率化できないか?」あるいは「民間のノウハウを活用することで、サービスの質を高めることができないか?」といった検討が全国各地で進められています。

 実際、「民間の能力を可能な限り活用して行政サービスの効率化を図る」という考え方に基づいて、行政サービスを積極的に民間に任せようという試みは、これまで政策的に行われてきた経緯があります。その代表例としてはPFI(Private Finance Initiative:民間の資金やノウハウ等を活用して公共施設を効率的に整備する手法)が挙げられます。PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)の施行から約4年が経過した現在、全国各地で様々な分野の公共事業に対してPFIの導入が進んでいます。

地方自治法の制約と一部改正の動き

 しかし、PFI事業においても、前述のような地方自治法上の管理委託の制限が、長らく事業実施上のネックとなってきました。事業の対象となる施設が地方自治法上の「公の施設」と位置づけられる場合、地方自治体と契約を締結してPFI事業を実施する民間事業者は、利用料金の徴収を含め、施設の包括的な管理運営を行うことが困難となります。このため、民間事業者が豊富な運営のノウハウを有していたとしても、そのノウハウを活用できる範囲が限定され、結果的に行政が効率化のメリットを十分に享受できなくなってしまう可能性があります。

 PFI法そのものは既存の法制度の枠組みを超えるものではないため、PFIの本格的な普及を図るためには、地方自治法をはじめとする既存の法制度の見直しが不可欠です。行政分野ごとの個別の法律については、これまでに一部改正もしくは新たな解釈が行われ、事業を実施するうえでの制約が徐々に緩和されてきました。地方自治法についても、改正を求める声が長い間各方面から上がっていましたが、今年になってようやく改正が実現したところです。その内容については、後編で詳しく述べていきます。

参考:地方自治法(一部抜粋)
(公の施設)
第二百四十四条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2 普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。
(公の施設の設置、管理及び廃止)
第二百四十四条の二 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
2 普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない。
3 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、その管理を普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるもの又は公共団体若しくは公共的団体に委託することができる。

(つづく)
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