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コラム「研究員のココロ」

市町村合併における「まちづくり論」の再考

2002年07月29日 小松啓吾


1高まる市町村合併の機運

 合併特例法(市町村の合併の特例に関する法律)の期限を約2年半後に控え、全国的にいよいよ市町村合併の動きが本格化してきた。総務省の調査によると、平成14年4月1日現在、全国市町村の約7割にあたる2,226市町村において、合併協議会の設置をはじめ、合併に関する何らかの検討が進んでいる。(出典:総務省「合併相談コーナー」

 合併に伴う手厚い財政支援措置の適用期限である平成17年3月に向けて、市町村合併の動きがさらに加速するであろうことは、想像に難くない。


2「行財政」と「まちづくり」は車の両輪

 これほどまでに市町村合併の機運が高まっている理由は何か。言うまでもなく、その背景には、国と地方の財政状況の悪化がある。筆者が以前のコラムにおいて述べた通り(関連記事はこちら)、厳しい財政状況下において、市町村においては、合併を通じて組織のスリム化や投資の効率化を図ることが求められている。

 実際、筆者らが合併事例においてコンサルタントとして関わった経験によると、多くの地域においては「合併せずに将来やっていけるのか」といった不安が色濃く、将来的な財政状況の悪化への懸念が合併協議、ひいては合併推進の原動力となっている感がある。
 しかし、筆者らはかねてより、市町村合併の意義は「行財政の効率化」と「新たなまちづくりの展開」の2つに集約されると考えている。いわゆるリストラ効果だけで合併後のまちづくりのビジョンを描くことは不可能であり、強固な行財政基盤の裏付けを持たない施策展開には限界がある。すなわち、行財政とまちづくりが車の両輪として有機的に機能してはじめて、真の合併効果が発揮されるものであると言える。

 なお、ここでいう「まちづくり」とは、必ずしも施設整備のようなハード事業に限定されるものではない。合併後の一体感の醸成、地域もしくは集落単位におけるコミュニティの活性化、といったソフト事業の展開も重要である。


3 創意工夫と継続性がポイント

 では、合併後の市町村においては、新たなまちづくりをどのように展開すべきであろうか。結論から言うと、正解や特効薬は存在しない。地域の実情に応じて柔軟に発想して、時間をかけて取り組むべき課題であろう。

 大雑把な表現をすれば、市町村合併には「都市型」と「地方型」の2つがあると考えられる。前者においては、往々にして行政区域に対する住民の愛着が薄く、後者においては、行政と住民の距離が非常に近い傾向が見られる。

 合併論議において「住民の生活圏が広域化し、行政区域との不一致が生じている」という点がよく指摘されるが、都市においては、人々の活動がそもそも空間的な制約を受けにくくなっている。仕事で遠く離れた相手とリアルタイムな情報交換を行うこともあれば、共通の目的や趣味を持つ人々同士で、バーチャルなコミュニティを形成することもある。従って、行政区域を一つにしたからといって、すぐに一体感が生まれるとは限らない。

 これに対して地方、特に農村地域では、「向こう三軒両隣」という言葉に代表されるように、「町」「村」「集落」といった単位での地縁的な結びつきが非常に色濃く残っている場合が多い。都市に比べると、コミュニティの中ではもちろん、行政と住民の間においても、お互いに顔の見える距離で人々の交わりが形成されている。合併しても、物理的に遠く離れた集落同士の交流を促進するためには、多くの時間と努力を要するだろう。

 これらの事実からだけでも、都市と地方では合併後のソフト事業のあり方が一様でないことは明らかであり、同時に地域ごとの創意工夫が欠かせない。特に、大都市と小規模町村のような組み合わせの合併においては、コミュニティの形成に関するきめ細やかな配慮が必要であろう。

 また、土地利用の方針についても慎重な検討が求められる。合併後の土地利用構想は、ともすれば大型プロジェクトの誘致を巡る市町村間の駆け引きの材料となる場合があり、地域の全体最適を見据えた構想になりにくいのが実情である。合併協議の段階において、「重点開発」のような、特定市町村に有利となりかねないようなスローガンを打ち出すことは難しいかも知れないが、仮にそうであるならば、合併後の行政体制が整った段階で、速やかに新たな土地利用構想を策定することが不可欠だろう。


4 まとめ

 ハード事業とソフト事業を兼ね備えた合併後のビジョンは、一体的なまちづくりの実現という観点から非常に重要である反面、合併協議のプロセスにおいて、市町村間の合意形成を図るための材料として用いられるという側面を有している。従って、一体的なまちづくりを実現するためには、合併後のアクションこそがむしろ重要である。

 合併は手段であって、目的ではない。その意味でも、合併後のコミュニティをどのように形成すべきか、合併を通じて1つにまとまった空間をどのように再定義すべきか、合併後も引き続き検討していくことが望まれる。
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