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コラム「研究員のココロ」

金融主導で進むゼネコン再編の最大のメリットは金融支援

2002年07月01日 山田英司


 経営統合の常ではあるが、統合を予定しているゼネコンにおいても営業拠点や社内システム、はたまた仕事の進め方などをめぐり、所謂"主導権争い"が展開されるのは想像に難くない。

 また、統合により大きな影響を受ける下請け各社も、この主導権争いの行く末を、固唾を飲んで見守っている。
 一方、統合により融資先が束ねられる金融機関も、融資残高の圧縮に向け、各行間で熾烈な駆引きを繰り広げること請合いである。

 では、そもそも経営統合とは何なのか。商法を中心とした法的整備が進んでおり、手段については今後多様化してゆくとは思われるが、現行における主な統合手法は合併による統合と持ち株会社を利用した統合に分けられる。
 これらの方法により経営を統合するメリットとして、一般的には売上高や総資産などで表される事業規模の拡大や、顧客・商圏・技術の相乗りによるシナジー創出、間接・補助部門等の統合によるコスト削減などが考えられる。その一方で、デメリットとしては、資産増加に伴うリスクの拡大や、組織風土の相違を理由とした有能な従業員の流出などが挙げられる。

 もちろん、合併、持ち株会社など統合の手法や各業界の持つ特性により、上記のメリット・デメリットの度合いは異なるため、各企業はこれらを勘案してメリットが大きいと判断した場合に経営統合を行うはずである。しかし、ゼネコンの場合は金融・行政指導で行われるといった背景もあり、やや事情が異なる。

 それでは、ゼネコンにおいて経営統合によるメリット・デメリットはどこにあるのだろうか。


 まず統合の手法について説明しておくと、ゼネコンにおいても経営統合については他業種と同様に、合併と持ち株会社の両手法が考えられる。さらに、持ち株会社方式にも、ゼネコンの場合は図のとおり事業を再編するか否か、また、再編する場合も再編の単位をどのようにするのか(土木・建築という生産単位か、営業拠点単位か)などの選択肢がある。

 一般的にいわれるのは、ゼネコン業界においては営業ルートが重複する場合が多いことや、公共事業の入札機会が減少する点から、単純な合併を選択した場合では規模の拡大のメリットはさほど望めないといわれている。この点では、持ち株会社方式を選択しても事業再編を実施した場合は同じ懸念が当てはまる。では、間接・補助部門の統合によるコスト削減のメリットはどうか。

 確かに、合併の場合には、企画や総務・経理等の間接部門や、設計・積算・機材などの補助部門、さらには研究部門や子会社に関するコストは、統合により重複部分が削減されるため、コスト削減効果はある程度見込まれる。

 ところが、持ち株会社による統合の場合は、統括会社と各会社で、それぞれ間接部門や補助部門が重複したままとなるケースも想定される。このような事態に対し間接・補助機能の集中処理部門(シェアードサービスセンター)の設置やアウトソーシングの実施など相当の工夫を凝らさない限り、単純合併ほどのコスト削減効果は創出できない。

 一方、統合において各社は相当の人員リストラを予定しているが、このなかには多数の技術者が含まれている。ゼネコンにおいて、施工技術は経験によって培われることを考えると、経営統合の進め方によっては最重要である技術者という資産を失うこととなり、技術力の低下を引き起こす。これは統合における大きなデメリットであろう。

 そして、ゼネコンの経営統合によって想定されるデメリットで最大のものは、統合に伴う会計制度が時価基準に移行しつつあるなかで、なんとか抑え込んできた資産の含み損失が一気に表面化することである。バブル期にゼネコンは受注高を拡大するために、子会社を事業主体とした用地の取得や、発注先への与信付与を積極的に行ってきた。その結果として現在も子会社の事業用資産のなかに多額の含み損を抱えている。顕在化する含み損の大きさによっては、統合による再建はおろか、信用不安を引き起こして破綻してしまうケースも十分考えられる。

 これらのメリット・デメリットを考慮すると、ゼネコンが経営統合する妙味はゼネコン側にはさほどないのは明らかである。それにもかかわらず、ゼネコンの経営統合を金融・行政が後押しし、ゼネコンがこれを受け入れるのはなぜだろうか。


 逆説的な言い方になるかもしれないが、ゼネコンが経営統合に応じるのは、統合による一般的な効果を享受することよりも、統合を理由として金融支援を受けることが可能となり、これによりストックの傷みを解消できるという判断があるからではないだろうか。

 その観点からいくと、金融支援を受けられるのであれば、ゼネコンにとっては、現状の会社の上に持ち株会社を単純に置き、重複部門の削減に努めることが、現状では最善の経営統合の方法といえよう。

 しかし、単純合併以外の経営統合では、業界の真の立直しには寄与しない。なぜなら業界の再生には、供給過剰であるゼネコン市場の需給関係を正常化させることが不可欠であるからだ。そのためには経済環境の厳しさから需要の喚起がむずかしいことを考慮すると、プレイヤーの数を減らすことが急務であるが、単純合併以外の統合ではプレイヤーが減少しないため、需給関係を是正するには至らない。

 法的整理に追い込まれるゼネコンも今後増加すると思われるが、会社存続を前提とする民事再生法や会社更生法などでは市場におけるプレイヤーの削減には結びつかない点で、いわゆる「淘汰」にも同様の問題が存在する。

 つまり、現況の淘汰・再編のスタイルでは、いくら金融機関が支援をしても共倒れの懸念が続く。したがって、淘汰・再編を業界の再生に結び付けてゆくには、再編については持ち株会社方式より、合併により高いインセンティブを与えることや、淘汰については、建設業法の厳密な運用により市場からの退出も促すこと(そもそも、欠損額が20%以上になると建設業許可の更新は不可能であり、その意味では民事再生法や会社更生法の適用会社に許可を与える余地はないはずである)など、思い切った施策の実施が、国土交通省には今後求められるだろう。もちろん、これに併せて雇用の確保や下請け保護の施策を実施することはいうまでもない。



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週刊ダイヤモンド2002年3月30日号を一部加筆修正
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