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コラム「研究員のココロ」

NPOと企業のパートナーシップを超えて

2002年04月30日 東一洋


 以前、宮崎市の市民活動支援センターの「コミュニティ支援サイト」について紹介したが、その後縁あって同センターに往訪し、仕掛け人である市職員へのヒアリングやシステム提供者の旭化成ネットビジネス推進部の担当者からのプレゼンテーションを受ける機会があり、今回は続編として「NPOとITの関係、NPOと企業の関係」について述べたいと思う。

 前稿では詳しい事業内容についての情報がなかったが、それについては webサイトを参照していただくとして、ここではヒアリングの結果として事業の成果や課題について簡単に整理したい。

 ヒアリングによると、支援サイトを開設してから、比較的若い母親達による地域の子育てグループが多く登録してくるようになったという。若い母親はインターネットに比較的馴染みのある年齢層であることがその理由であろう。少子高齢化への対応は地域の大きな課題でもあり、その意味ではこのサイトの有用性を示すものである。また本システムは市民活動と地元企業を結びつけることの出来るシステムであるが、企業の参加は数社程度(ヒアリング時点)であり参加促進がまだ大きな課題となっているらしい。

 筆者の参加するインタミディアリ型NPO(特定の分野で活動する団体でなく、市民活動そのものを支援していこうとする中間型の組織)で実施したNPO実態調査(市からの委託調査:(人口10万人強の郊外都市であり、市民活動に対する市の姿勢が先進的である))の結果では、 NPO・市民活動団体(市内152団体)の電子メールアドレス保有率が約3割、URLは約1割であった。構成会員の年齢層は50~60歳代が中心である。このような状況から類推すれば、支援すべき対象(NPO)自身のIT環境が未整備であり、この点が改善されることが、まず必要であろうと考えられる。実際、市民活動補助金の申請を見ると「パソコン購入費」を計上する団体が多い。ちなみにパソコン購入費に補助はつかない。しかしながら一方では携帯電話の普及により、携帯メール保有率は上昇しており、宮崎市での試み(携帯メールとの連動)は時宜を得たものであると評価できる。

 ITリテラシーの向上については、世界最先端のIT国家を目指す我が国にとっての大きな課題ではあるが、NPOに限って考えると、IT環境は必要不可欠なものであり、自らが努力する他に道はなさそうである。というか日常の連絡業務やイベント案内等に係る費用積算とインターネットを活用した場合とを比較検討すれば、答はおのずと出るであろう(昔ながらの地縁型組織や行政機構に組み込まれた団体等はこの限りではないと思われるが)。

 知恵を絞る必要があるのは、このようなコミュニティ活動に対する企業にとっての参加メリットをどのように提供するのか、である。市担当者へのヒアリングでは 「インターネットの広告効果」=「企業の参加メリット」というお考えをお持ちのようであったが、地域限定型の「コミュニティサイト」にこの図式をあてはめるには、相当の工夫が必要であると考えられる。

Yahoo! JAPAN のような1日に2億6600万ページビューのアクセスを誇るインターネット総合情報サイトが存在する現実において、コミュニティサイトが同じ「広告効果」を得ることは不可能であると断言できる。また最近は質的な効果の発揮すなわち、個人の趣味趣向をあらかじめインプットした上で、それに合致した企業の商品やサービスの広告を届ける仕組みが一般的になりつつある。

 コミュニティサイトの運営に企業の参加を促進する方法としては、このような「質的な広告効果」を追求することが不可欠であろう。

 しかしながら、広告という切り口のみで企業参加を促進することもかなり難しい経済状況となっている。

 当社が(財)関西産業活性化センターからの受託調査として実施した「企業とNPOの新しいパートナーシップに向けて」(2001年3月)では、「パートナーシップの成功要因は、企業の持つリソース(資源)とNPOの持つスペシャリティとが融合するところに存在」することが整理されている。例えば、企業の新商品や新サービスの開発にNPOが消費者ニーズの代弁者として参画するケースなどが実際にみられる。企業にとっては社会貢献活動分野ではなく、本業の部分でNPOとパートナーシップを形成することが持続的な取り組みになるのである。

 このような調査結果から類推すると、コミュニティに山積する様々な課題の解決が本業に直結する企業が幸運にも集積している地域であれば、自然にコミュニティ活動への企業参加は進むであろうし、またすでに進んでいるであろう。問題はそうでない地域で、どのように考えるのかである。

 結論からいえば、今すでにある企業に期待してはいけない、ということだ(少し乱暴ではあるが)。すなわち、新たなコミュニティビジネスを創出していくことが求められているわけである。市民活動と地元企業を結びつけることが重要なのではなくて、市民活動が自立化し、ビジネスとしての永続性を持つことが出来ることが重要なのである。このようなことを論じると、多くのボランティア精神からなる市民活動を理解せずに何を言っているのか、と糾弾されそうだが、筆者の基本的な考え方は、行政依存・補助金依存型の市民活動は、既存の行政システムを変えうるパワーにはならない、というものである。行政に代わり時代のニーズに応じた多様な公的サービスを提供する新たな市民活動・NPOは、サービスの対価を貰う権利があるし、また貰う努力を惜しむべきではない。それに伴い発生するアカウンタビリティ等により、組織としての高度化が進み、掲げたミッションを遂行するための各種事業の拡大も可能となるのである。

 この経済情勢のもと、社会貢献活動の分野でコミュニティ支援を実施してくれる殊勝な企業と縁のない地域の市民活動促進課の職員の方々は、「市民活動を促進する」というミッションをもう少し拡大して考えることが必要ではないだろうか。すなわち、地域独自の新たな市民サービスビジネスを創造していくのだ、という発想転換である。そのためには、永年地域産業の支援・育成に携わってきた商工関連セクションとの情報交換・交流を進めていただきたい。またそのような地域で市民活動をおこなっている市民の方々には、ひとつ殻をやぶって起業家としての取り組みを期待する。

 「パートナーシップからアントレナーシップへ」を結びの言葉としたい。

 




出典:「japan.internet.comパブリック」3月27日 URL:http://japan.internet.com/public/
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